■民営化と私有化
郵政民営化の基本骨格が決まったようです。
なにやらごたごたと長くかかりましたが、利害調整が大変だったようですね。
それは当然です。
民営化とは私有化のことですから、関係者の私的利害がすごく絡んでいるわけです。
まさに利権がらみの政治家アイテムといえます。
ところで、日本ではどうしてこうも「民営化」ということがプラスのイメージを持っているのでしょうか。私は民営化礼賛の風潮には大きな違和感を持っています。結局は誰かの私利私欲の世界に投げ込むだけの話なのですから。
民営化とはプライバタイゼーションであり、要するに私化、私有化、私営化のことです。民営化などというと、なにやら私たちの生活の近づくように感じますが、そんなことはありません。「お上のもの」から「誰かのもの」になるだけの話です。正々堂々と私欲のための事業になるということです。
目指すべきは、「「みんなのもの」にしていくべきであり、その手段は経営の透明性を高めることです。あるいはガバナンスの主体を国民に移していくことです。
そういう視点から考えれば、今の民営化路線は時代に逆行しています。
ところがだれもかれもが「民営化」礼賛です。
国鉄を民営化したらサービスもよくなったし、経営業績も良くなったという人がいるかもしれません。
確かにそういう面もありますが、悪くなった面もあります。
よくなったことで言えば、それは決して「民営化」の問題ではないように思います。問題の混同が巧みに使われています。
規制緩和もそうです。これも危険な言葉です。
規制緩和にしろ、民営化にしろ、結局は誰かの利益につながる私的な世界を広げるということです。
私たちの世界はこうしてどんどん侵食されているのです。
福祉の世界も環境も世界も、生活基盤の世界も、すべては株式会社に席巻されて行きそうです。
民営化や規制緩和に対して、もっと違和感をもってほしいです。
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コメント
株式会社の透明性を高めてゆくということでしょうか。「みんなのもの」とは誰もがいう言葉ですが、逆に自分が関われる以上の権益は求めない、主張しないということが大切ではないでしょうか。昔の社会主義とどう違うのかわかりません。
投稿: syouji | 2005/04/05 02:39
コメントに感謝します。
少し補足します。
「みんなのもの」とはまさにみんなのものなのですが、具体的にはたとえばワーカーズコレクティブやスペインのモンドラゴンモデルのようなものを考えています。社会主義というよりも、共和主義のイメージです。あるいは日本の無尽講や結いや舫いのようなイメージです。私は「コモンズ」という言葉を使っていますが。
事業体としての組織原理も、組織発想ではなく、表情のある個人のつながりから考える組織原理への転換が必要だと思いますが、そのイメージは最近の事業型NPOや労働者協同組合です。
実際にどうするのかということですが、透明性を高めてゆくということです。ただし、株式会社である必要はありません。株式会社は事業体のひとつのモデルに過ぎません。しかも有限責任ですから、大規模化しやすい特徴がありますが、同時に危険性ももっています。大量生産時代には向いていましたが、成熟社会には不向きかもしれません。新しい企業モデルを創出することが必要だと私は思っています。
組織のマネジメントもオープンにすること、そして誰でもが参加できることが、組織や仕組みをみんなのものにする重要な要素です。まさにコーポレート・ガバナンスの問題ですが、出資者が統治するのではなく、関係者がコミットし育てていく仕組みが理想です。
いずれにしろ、民営化そのものに価値があるのではなく、民営化は一つの手段であり、両刃の剣であることを認識することが大切だと思っています。
投稿: 佐藤修 | 2005/04/06 10:30
ワーカーズコレクティブやスペインのモンドラゴンモデルが、本当に具体的なものでしょうか。海外にうまくいっているものがあるらしい、という点では外国のものを何でももってくる日本のIT起業家という人たちと変わらないのではないか。日本の無尽講や結いや舫いも、過去によいものがあったらしいというエンゲルスの原始共産制と同じようなうわさに聞こえます。露骨な不正は公正を装う私物化に見られますが、これまでのものの不正を正すことはできても新たな構想というものはイメージを次々ともってきてもキャッチフレーズだけではないでしょうか。具体的な不正に対してあまりに一般的な構想を対置すると、自分が同じ批判に晒されるので、あくまで個別の闘争に参加するのかしないのかという限定された同盟の連鎖しかないようです。
投稿: syoji | 2005/04/07 21:37
ワーカーズコレクティブやスペインのモンドラゴンモデルが、本当に具体的なものでしょうか。海外に%E
投稿: syoji | 2005/04/07 21:42
確かに難しいことですが、目標にはしたいと思います。
私もささやかながら、ワーカーズコレクティブと結い的組織を主宰していますが、いずれもなかなか育ちません。
しかし、そうした試みは各地に広がってきている戸思いますが、そのうちのいくつかはきっと育っていくと確信しています。
投稿: 佐藤修 | 2005/04/08 22:18
政治は理想と現実にしっかりとした峻別が必要な気がします。
現実は理想に引っ張られてもいいと思いますが、理想は現実に引っ張られてはいけないと感じます。
理想と現実を的確に区別し、理想はこうだが、現実はこうであり、従って、(その理想を実現するために)現在はとりあえずこの路線で行くと考え方の筋道を残して議論すれば、枝葉末節な議論も減るでしょう。
そもそも郵政民営化は大きな政府の弊害を是正するために行なわれるべきと認識しております。
しかし、おっしゃる通り、透明性がなければ、結局は大きな政府と変わらぬ『資金の不透明な流れ』が残り、改革が骨抜きになるでしょう。
竹中大臣の示した案も一見みんなのものになるような明案に見えますが、株式の持ち合い・買戻しに何の規制もしない(普通の会社だと強調)あたりに、危険を感じます。
(明らかに普通の会社ではない = スケールメリット・人的連携性)
その意味で、佐藤さんの案に理想として賛同できます。
ただ、現実は国会議員たちを利益代弁者とした利権の綱引きです。
要は銀行族と郵政族とアメリカンエージェントのT大臣の息のかかった金融庁のうち、誰が郵貯を無駄遣いするかをもめているように思います。
どちらにせよ、無駄遣いがされるなら、日本の病根の原因である大きな政府をやめ、(官僚主導の)社会主義を崩し、実質的にも民主主義を実現させた方がメリットが大きいと思います。
具体的には、ハゲタカに食われるのを覚悟で金融庁の支配下に置き、改革を継続し、利権構造に打撃を与え、議決権が正当に行使できる社会の仕組みを一日も早く実現させることが大切だと感じます。
従って、今回の民営案に大枠賛成・持ち株会社・および新会社の株の持合の規制なしという点には反対というが当方の愚見です。
透明性が一番大切ですね。
投稿: NTA | 2005/04/10 13:26
NTAさん
NTAさんのコメントに基本的に共感です。
ただ、あえていえば、そうした動きに大きな不信感があるのです。
>そもそも郵政民営化は大きな政府の弊害を是正するために行なわれるべきと認識しております。
私が違和感を持つのは、いまの民営化計画が「大きな政府の弊害を是正」する内容かどうかが見えないことなのです。
「民営化」という言葉で実態を糊塗しているだけなのではないかという不信感です。
さらにいえば、私たちには見えない隠れた世界で、むしろ「もっと大きな政府」がつくられていくのではないかという不安です。
業務をクロネコヤマトに業務移管するとか、そういうわかりやすいスタイルであれば、理解できるのですが、ともかく理解できないのです。
理解力がないのかもしれませんが、言葉だけではなく、実態の議論をしてもらわないと、インターネットとテレビ放送が連携すると「わくわく」するようなことができるという、堀江さんの話と同じにしか受け止められないのです。
>どちらにせよ、無駄遣いがされるなら、日本の病根の原因である大きな政府をやめ、(官僚主導の)社会主義を崩し、実質的にも民主主義を実現させた方がメリットが大きいと思います。
しつこく繰り返せば、「実質的にも民主主義を実現」させられると思えないのです。
民主主義を目指すのであれば、それこそ透明性が確保されることと、関係者が影響を与えられる仕組みがなければいけません。今の代議制そのものも、民主主義からは遠いものです。
民営化の名の下に、新たな利権構造が構築されていくだけではないかという不信感がぬぐえないのです。
そして、制度改革の前に、すぐにでもやれることがあるように思えてならないのです。
投稿: 佐藤修 | 2005/04/19 21:43