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2005/12/02

■信頼しないことから発生するコスト

昨日の記事につながる話です。
JT(日本たばこ産業)の第2次CIともいうべきプロジェクトに少し関わりましたが、そこで面白いことがありました。
JTではそれまで各職場で必要な事務用品があると、申請書に記入して担当部署にもらいに行く仕組みになっていました。それを誰でもが自由に入れる事務用品置き場をつくり、必要になったらそこから自由に持ち出せるようにしたのです。ノーチェックですから消費量は増えるとしても、それにより管理する人件費を削減できると考えたのです。
結果は人件費の削減だけでなく、消費量も減少したのです。理由はいろいろ考えられるでしょうが、たとえばこれまでは手続きが面倒なので、各部署が余分に自分のところで在庫する形になっていたのです。在庫があれば逆に無駄使いが起こります。必要になればいつでも入手できるとなると、わざわざ在庫する必要はなくなります。

この基本にあるのは、信頼の有無です。
信頼関係があれば、管理コストの削減と無駄の発声の抑制が可能になり、しかも関係者の気持ちを明るく、元気にするのです。それに多くの場合、人は信頼されると元気になると同時に、裏切れなくなるものです。
官民構造には基本的に信頼はありません。統治するものとしての官と統治されるものとしての民の間に発生する「信頼」の実体は管理の枠内での功利的な信頼です。もろい関係と言えるかもしれません。
管理の枠を超えた信頼はどうやって構築できるのか。
それは自らの最初の一歩です。
オスグッドのGRIT(Graduated Reciprocation in Tension-Reduction)がすぐ頭に浮かびます(チャールス・オズグッド『戦争と平和の心理学』岩波書店,1968年)。
GRITは、米ソ冷戦時代に国際政治の世界で主流を占めた核抑止理論によるエスカレーション理論(自らの核戦力を増強することにより相手の核兵器使用を封じ込めていく発想)に対して出された対案です。先ず自らが軍縮することにより相手からの信頼を高め、相手の軍縮を引き起こす発想で、「緊張緩和イニシアティブ」ともいわれます。
自らがビジョンに向けて一歩踏み出す。誰でもできる実践的な方法です。その出発点は、相手を信頼することです。

信頼関係を壊して経済を発展させている限り、サステイナビリティは実現できません。
人を信頼できない生活は決して豊かではないでしょう。
先ずは隣の人を信頼する、そこから暮らしやすさは始まります。

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