■国への愛と国民への愛
昨日、ドミニカ移民訴訟の判決が出ました。
政府の政策に応じてドミニカ共和国に渡った日本人たちが「募集時の約束と異なる悪条件の土地を与えられ、困窮生活を余儀なくされた」として、国に計約32億円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は7日、請求を棄却する判決を言い渡した。(朝日新聞)
判決は、国の責任を認める一方で、時効により損害賠償は否定しました。
その判決に対して、安部官房長官は「国の主張が認められた」という一言ですませました。そこには被害者に対する思いやりの気持ちは微塵も感じられませんでした。
「棄民政策」が問題にされたのは昭和40年代だったと思いますが、この訴訟が起きた時に、まだ問題は解決していないのかと私は驚きました。
今回の裁判でも解決しなかったのかと残念に思います。
問題の解決はそう難しいわけではありません。もしお金の問題であれば、国民に呼びかければ、32億円どころか1000億円くらいのお金はそう難しくなく集まるでしょう。
そういう時代です。
30年ほど前にブラジルに行った時、国の呼びかけに応じてブラジルに移住した人にお会いしました。歳のわりにとても老けて見え、ご苦労がにじみ出ていました。国の無責任さに、他人事ながら怒りを感じたのを思い出します。
日本の政府は国民を愛しているのでしょうか。とてもそうは思えません。
愛さなくてもよいのですが、せめて国民の苦労や痛みはわかってほしいものです。
「痛みを分かち合う」は、まず自らが実践しなければいけません。
国民への思いやりのない政府を、国民は愛せるでしょうか。
愛せるはずがありません。
いま問題の「愛国心」は「国」への愛です。
この「国」というのがまた曲者です。
「国敗れて山河あり」という言葉がありますが、ここでの国は「政府」でしょうか。
愛郷心という言葉の「郷」は自然、つまり山河や文化だとすれば、愛国心の国もまた山河や文化でしょうか。
いま問題の愛国心は政府を意味しているような気もします。
愛国心論争での「国」とは何かもあいままのまま議論されているのが、いかにも日本的です。
郵政民営かもそうですが、多義的な民営化や愛国心をみんな分かったような気になって賛否を議論しています。議論にはなりようがないのですが。
この国には議論する基盤がないのかもしれません。それが悪いわけではありません。それもひとつの文化です。
しかし、何か議論していような勘違いをさせることはフェアではありません。
お上は一方的な愛を求めてきますが、愛は「愛すること」にこそ、意味があるのであって、「愛されること」にはほとんど意味がないというのが私の考えです。
「愛される」ことを強要することほど滑稽なことはありません。
絶対にそんなことは起こりえないからです。たとえ洗脳しても、それは「愛」ではありません。
もし愛国心を養いたいのであれば、まずは愛するべきでしょう。
国民を、そして国を。
愛国心を語っている人たちの愛国心のなさには、私のような愛国者は我慢がなりません。あれ!?、またよくわからない議論になってしまいました。
人間、立腹すると論理的なくなるのです。困ったものです。
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コメント
こういうことをやっている政府が、野口英世賞を創設とか、ちゃんちゃらおかしいですね。野口博士も向こうで涙を流していることでしょう…。
たいせつなことがわからない人が政治家になるのか、政治家になるとたいせつなことがわからなくなるのか。どっちなんだろうかと悩むことがあります。
投稿: おおむら | 2006/06/09 13:57
大村さん
ありがとうございます。
たぶん政治家になると見えなくなるのではないかと思います。
村上さんもそうだったのかもしれません。
しかし、そうしたことは何も彼らに限っているわけではなく、
私たちも常にその落とし穴の入り口にいるように思います。
特に私のように、65歳にもなってしまうと、
さまざまな思い込みから世界が見えにくくなってしまいます。
そのくせ、年の功で世界を見る目が磨かれたなどとどこかで思っているのです。
困ったものです。
ところで、大村さんが先週見た夢は怖いですね。
とてもリアリティがあるのでゾッとしました。
http://dateotoko.com/archives/2006/06/20060607.html#more
投稿: 佐藤修 | 2006/06/11 12:11