■銃撃されて死ぬ確率
ロシア国境警備隊の銃撃を受けて、日本漁船の乗組員が死亡しました。
たとえ領海を侵犯した密漁であっても、銃撃されて殺される状況はなぜ起こったのでしょうか。
思い出すのは「発砲率」の話です。
米国陸軍に23年間奉職したデーヴ・グロスマンが書いた『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫)に出てくる恐ろしい話です。
「発砲率」とは米軍で使われている用語ですが、
兵士が実際に敵と対峙した時に敵に向かって銃を撃っているか、という割合です。
どのくらいだと思いますか。
彼の調査によれば、南北戦争から第2次世界大戦まで、「発砲率」は15~20%で、ほとんど一定だったそうです。
つまり、80~85%の兵士は、自分の命が危ない時でも、敵を狙って発砲していないのです。
ではどうしているか、違った方向に向けて発砲したり、威嚇しあって発砲しなかったり、という事例が多いようです。
とても安心します。
人間だけが、仲間を無意味に殺す生物だと教えられてきた私にとっては、
この文章に出会えた時には、やはりそうだったかととても安堵したことを覚えています。
ところが、その後の記述が恐ろしいのです。
こうした事実に気づいた米軍は、発砲率を高める研究を行い、実践します。
そして、ベトナム戦争以後は、発砲率は95%に劇的に高まったといいます。
私の安堵感は逆に大きな失望感に変わったことは言うまでもありません。
以来、このおぞましい話は記憶から追いやっていました。
今回の事件で、その話を思い出しました。
この本の原題は、正確には「戦争と社会における・・・」になっています。
そして、実はこの研究成果は兵士の軍事訓練だけではなく、社会全体に展開されているような気がします。
それが、私がおぞましいと思った理由です。
加担しているのはマスコミと産業界、とりわけエンターテイメント産業です。
映画やゲームを思いだせば、わかってもらえるでしょう。
第一次洗脳を受けた人たちが、今度は洗脳する側に回っているという恐ろしい構図も感じられます。
この本を読んだ直後に、このブログでも北野たけしを批判した記事を書きましたが、
彼などもまた洗脳を受けた典型的な人物だと思います。
少し考えすぎかもしれませんが、この視点で見ていくと、世界の動きが奇妙につながって見えるのです。
盛田さんはなぜ射殺されたのか。
私がいつ同じ境遇に出会ってもおかしくない社会になりつつあるのかもしれません。
生物としての人間は滅びつつあるとさえ思えてなりません。
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