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2007/01/19

■2つの価格方程式と不二家事件

不二家のように、コストダウンのための不適切な経営行動に陥ってしまう企業が最近増えてきていますが、この一因は商品(サービス)の価格決定の考え方にあるのではないかと思います。
現在のビジネスの根底には、顧客満足と市場主義がありますが、その影響が価格決定方式にも影を落としています。
いや、そこにこそ、現在の経済システムあるいは経済学や経営学の問題が象徴されているようにも思います。

価格とコストと利益の関係は2つの対照的な方程式が成り立ちます。
20年前まで一般的だったのは、
コスト+利益=価格(価格方程式1)
でした。
これはフルコスト発想という考え方です。
私が会社に入った頃の価格決定の主流がこれでした。
コストをかけるほど、良い品質のものができ、利益も上がるという時代でした。
コストをかけても売れなければいけませんので、コストパフォーマンスが重要になります。
つまりこの方程式は、価格が「価値」に見合うかどうかがポイントなのです。

ところがある時期から、この価格方程式は通用しなくなりました。
代わって登場した価格方程式は、
価格-利益=コスト(価格方程式2)
です。
価格はコストと関係なく、市場の厳しい競争のなかで所与的に決まります。
そしてそこから利益を引いた範囲で商品をつくらなければならなくなりました。
そうしないと市場での価格競争に敗れるからです。
そしてコストダウンが最重要の戦略課題になってしまったのです。
ちなみ、行政や公益事業でも経営発想が必要だといわれだした当初の「経営発想」はコストダウンでした。
今でもそう考えている人は少なくありません。
いうまでもありませんが、コストダウンと経営とは全く違う概念です。

価格方程式2の場合に、どのようなことが起こるでしょうか。
ここでは価格方程式1の場合と違い、コストとパフォーマンス(品質)は切り離されてしまいます。
ともかく安くすること、所定のコストに押さえることが至上命令になります。
そこに耐震偽装事件が起こる素地が生まれます。
雪印の時も、日本ハムも、今回の不二家のケースも、こうした枠組みの中で意思決定が行われてしまうわけです。

おそらく不二家の事例は氷山の一角です。
価格競争の対象になった商品やサービスの世界では、同じようなことが多くの企業で行われているのではないかと思います。
そこから抜け出すためには、価格方程式を2から1に戻すべきです。

適正なコストと適正な利益。
これをみんなで守ることが大切ですが、そのためにこそ企業は透明性を高めるとともに、社会の評価を受けやすくしていくことが必要です。
それこそが本来のCSRであり、ブランディングではないかと、私は思っています。
その仕組みを創ることは、そう難しいことではないと思うのですが。
残念ながら時代の流れは、どうも違う方向を向いてしまっているようです。
まもなくまた壁にぶつかるのでしょうか。

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コメント

はじめてコメントさせていただきますね。
本当に無駄なことはそのままで、必要なことを無駄なコストとしてカットしてしまう・・・
無駄を省くと言いながら、必要な部分を削ぎ落としてしまっているように感じます。そして、「これぐらいなら、大丈夫だろう」という驕り。
企業は情報を公開し、誠実な企業を消費者が「バイコット」で応援し、「適正な」価格設定と流通になる社会にしたいですね。

投稿: 野原みずえ | 2007/01/21 01:23

野原さん
ありがとうございます。

まだまだ企業の情報公開は不十分ですね。
私たち消費者もしっかりと企業をウォッチしていく必要があります。
なかには不二家とは全く逆に、しっかりした品質管理や経営理念を持っている会社もありますから、そうした会社を評価し、会社と企業をつなげていく仕組みも必要だろうと思います。
アメリカのCERESのような仕組みは日本にはなかなか育ちませんが。
私は今取り組んでいるコムケア活動の一つとして、
そんな仕組みを創りたいと考えています。
まだ構想だけなのですが。

ところで、
>無駄を省くと言いながら、必要な部分を削ぎ落としてしまっているように感じます。
ということですが、
これは最近の「行政改革」や「政治改革」にも当てはまるような気がします。
ビジョン不在なのかもしれません。

投稿: s佐藤修 | 2007/01/21 08:18

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