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2007/07/12

■生活保護と格差社会

昨日、生活保護について書いたら、「生活保護の考えを根本から変えるべき時期にきている」というのはどういうことかと質問されました。
生活困窮者を保護すると言う発想を見直し、生活困窮者が増えていく社会のあり方を問い直す必要があるという意味だったのですが、うまく伝わらなかったかもしれません。
「保護」という姿勢に、私は大きな違和感があるのです。

ちなみに生活保護世帯数ですが、この10年、増加傾向にあります。
このこと自体。いまの社会のあり方が間違っていることの証左ではないかと思います。
生活保護世帯が増えていることと格差社会とはどうつながるのでしょうか。

貧しさには、絶対的な貧しさと相対的な貧しさがあります。
絶対的な貧しさとは、生存が維持できない状況のことです。
人はすべて繋がっているという発想に立てば、それは当事者の問題ではなく、社会の問題です。
相対的な貧しさは、実はこれとは全く違う話です。
生活は維持できるが、隣人の暮らしぶりなどに比較すると貧しさを感じてしまうというものです。
絶対的貧しさは「存在するもの」ですが、これは「つくられた貧しさ」です。
近代の産業は、こうした「つくられた貧しさ」に、その発展の源泉を置いています。
「顧客の創造」とは、そういうことです。
だからこそ、それとは別の視点で貧しさの問題に取り組むことが必要になります。
それが政治の役割です。

一見貧しそうに見えても、本人はむしろ豊かさを感じている場合もあります。
開発途上国の社会や、日本でもたとえば長崎県の離島での暮らしは、所得額は低くても一概に貧しいとはいえません。
そうした人たちに、貧困感を植え付け、市場を拡大してきたのが、この数世紀の産業発展だったといってもいいでしょう。
テレビは、そうした面で大きな働きをしました。いや、今もしています。

経済発展は貧富の差をなくすことではなく、貧困を利益がとれるかたちに作り直し、結果として貧富の差を拡大することだと言ったのは、イバン・イリイチです。
いわゆる「貧困の近代化」論ですが、おそらく近代産業は絶対的貧困層を、少なくとも数の上では増やしてきたはずです。
これは多くの人の常識には合わないかもしれません。

私たちは経済の発展を富の増加と考えがちです。
しかし、それは同時に、富の偏在を加速させることでもあります。
問題は、誰の富を増加させるかです。そして、その半面で誰の富を奪うかも視野にいれていかねばなりません。
南からの収奪が北を豊かにし、同じ国内でも富の偏在を進めることで、経済活動は活発になり、成長が実現します。
ブッシュ政権や安倍政権は今でも声高らかに「成長」を呼びかけます。
しかし、そうした成長の結果、貧しさもまた増幅しています。
格差がますます大きなものとなっているわけです。

その格差拡大は2つの種類の問題を起こします。
一つは相対的な貧困層の増大です。
しかし、実はもう一つ、絶対的貧困層もまた増大させていることを見落としてはなりません。
相対的貧困層は「清貧」な生き方になることで豊かさを獲得できるかもしれません。
しかし、絶対的貧困層はどうすればいいのか。現実に「ごはんが食べられなくなる」のです。
人のつながりが失われてしまった社会で、健康を害してしまったら、途方にくれてしまいます。
その時に、果たして生活保護行政は支えてくれるのでしょうか。たぶん難しいでしょう。
その証拠は新聞記事からいくらでも見つけられます。
在留孤児だった人が日本に来て、みんながみんな暮らしがよくなったわけではありません。

今回の事例もそうですが、生活保護を受けることはまじめに生きてきた人にとっては、とても難しいことなのです。
そういう人には、行政職員もあまり関わりたくないのです。財政状況も厳しいですから。

しかし考えてみてください。
難病の子どもの米国での手術のために億単位のお金が集まるほど「豊かな社会」です。
同じ地域に住む生活困窮者を放置しておかねばならないほど、全体としては絶対的貧困状況にはないのです。つまり社会の設計のどこかに問題があるのです。
正確に言えば、その「問題」に依存して豊かさを享受している人がいるということです。
格差社会の問題は、異質の2つの問題が混在しています。
少なくとも、生活保護に繋がるような状況はもっと真剣に考えなければいけません。
私もあなたも、いつそうした状況に陥るかわからないのですから。


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