■消費者庁への期待と懸念
消費者庁新設が議論されています。
産業起点ではなく、消費者起点で行政に取り組むところができることは歓迎すべきかもしれませんが、どうも期待を持つ気分にはなれません。
新しい流れを生み出す契機になるかもしれませんが、従来の構造を延命するだけのことになる危険性もあるからです。
たとえば、企業の広報活動を考えてみましょう。
企業にとって、社会との関係はとても重要ですので、ある程度の規模になると、広報活動に専門的に取り組む部署が創られます。
しかし、その結果、社会との関係は広報部門が一元化し、他の部門は逆に社会への関心を弱めてしまうというおかしな事態が生じてしまうこともあります。
そういう弊害をなくすために、企業では30年前から「全社員広報マン(パーソン)」と称して、全社員が広報意識を持とうという活動が展開されたことがあります。
こうした「専門化のジレンマ」はさまざまな分野でみられます。
もう少しわかりやすい事例では、企業の社会貢献活動があります。
企業のフィランソロピーとかメセナ活動が華やかな時期に、多くの企業は専門部署を創りましたが、逆にそれをつくったために、ほかの部署は相変わらず社会のことなど考えずに今まで以上に経済性を強めてしまった会社は少なくありません。
環境経営もそうです。
だからと言って、専門部署を創設することが悪いわけではありません。
それが全社の社会性や環境意識を高める契機になる可能性もまた大きいからです。
しかし、現在の分業思想に基づく社会にあっては、専門部署をつくることが他の部署からその意識を抜いてしまう恐れも否定できません。
縦割り文化の上に立つ行政も、同じことです。
環境省は省に昇格したとはいえ、今でも権限はそう大きくないでしょう。
環境省をつくるほうがよかったのか、経済産業省や国土交通省の行政方針を環境理念を基軸にして組み替えたほうがよかったか、判断はわかれるでしょうが、せめて環境省をつくった理念は、ほかの省庁も自らに取り組まなければいけません。
山形市が環境先進都市を標榜したことがあります。
市長は、環境部門だけではなく、すべての部署が「環境意識」を強めなければいけないという発想で、行政そのものの基礎に環境意識をおくことを目指しました。
「環境行政」に取り組むのか、「行政の環境化」に取り組むのかは、全く意味合いが変ってきます。
そして大切なのは、後者ではないかと思います。
これに関しては、福祉の問題などでも以前書いたことがあります。
「ビジネスの発想を変える高齢社会の捉え方」
消費者庁を新設するのは誰にも見えますし、取り組みやすいやり方です。
しかし大切なのは新しい組織をつくることではなく、行政の姿勢を変えることです。
行政の姿勢を変えることよりも新しい制度をつくることにばかりエネルギーを割く傾向が、これまでの行政の責任者には多かったように思います。そして組織を作って終わりにしてしまうわけです。
それでは逆効果になる恐れさえあります。
次々と新しい組織を創って来た結果が、昨今の行政の肥大化、天下り人事の広がりと無縁ではなかったことを忘れてはなりません。
公務員の人事問題でも同じような取り組みや発想が感じられます。
近代が生み出した分業の思想とそこから派生した専門の思想は、そろそろ見直すべき時期に来ています。
消費者庁を新設するのであれば、行政全体の枠組みを組み替えていくくらいの展望とグランドデザインが必要ではないかと思います。
しかし、そうしたロングタームのイノベーションに取り組む人は、いなくなったのかもしれません。
社会が複雑になりすぎてしまったのでしょうか。
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