■投資ファンドのために働くワーキングプア・カンパニー
先週、終わったNHKのドラマ「監査法人」は、肩透かしを食らったようなドラマでしたが、一つだけ頭から離れないセリフがありました。
上場を目指すベンチャー企業が、加盟者から受け取った加盟金を不当に売り上げに計上し、企業が急成長しているように見せかけている不正が発覚するのですが、それに関連して、解任された社長が投資ファンドの関係者に対して、こういうのです。
投資ファンドが次々と資金を貸してきて、その利息を払うために無理をしなければいけなかった。
かなり大雑把な要約ですが、まあそんなセリフです。
投資ファンドの利回りはどの程度が常識なのでしょうか。
おそらく業界の「常識」的な水準があるはずですが、私のささやかな見聞では、年利20~30%というのはよくある話です。
昨今の低金利社会においては、この利回りは信じがたいほどの高水準です。
ですから一度、ファンドから資金を導入すると、金利返済のために企業利益を高めなければいけなくなりかねません。
昨今の日本企業の業績は好調といっても、その利益の多くはファンド提供者、つまり株主や債権者にまわっていくのであって、従業員には還元されなくなっているわけです。
そうした状況の中では、ドラマに出てくるベンチャー企業経営者の悲劇は、とてもリアリティがあります。
最近、話題のM&Aなどでのファンドが目指す利回りは、もっと高いはずです。
つまりヤミ金融の高利貸しに追われるワーキングプアと同じ構図がそこにあります。
いわばワーキングプア・カンパニーとでも言うのでしょうか。
原油高も、実はこうした仕組みの一つでしかないでしょう。
先日、紹介した「金融権力」にはこんな文章があります。
経世済民を目標とする昔の経済学は、金融論を金儲けの術としては見なかった。企業も、人に雇用を与えることを最大目標として組織されていた。金融も、仕入れ・生産・販売という企業の全活動を円滑に進行させることを課題としていた。こうした投資ファンドのメンバーはお金持ちクラブですが、庶民の利回り水準と金持ちの利回り水準は全く違うわけです。
(しかし今では)金融は、企業や組織に生産と雇用に必要な安い資金を提供する分野ではなく、資金を出した組織や個人に年率数10%もの配当を可能にする分野へと改造されてしまった。
しかし、そこにこそ大きなからくりがあります。
低金利の世界と高金利の世界が、見えないところでしっかりと繋がっているわけです。
そして、たとえば、低金利の仕組みを主導していた日銀の福井前総裁が、一方ではそうした金持ちクラブのファンドで利益を上げるという犯罪が成り立つわけです。
その犯罪を公にしてしまうと、金融の世界の二重構造が露見し壊れてしまうために、その犯罪はもみ消されたのではないかと思いますが、全くおかしな話です。
ところで、もう一つに投資ファンドの仕組みもないわけではありません。
それはたとえば、住民債のように、関心ある人たちが少しずつお金を出してファンドをつくり、そのファンドで、社会的な事業に取り組んでいくという仕組みです。
この方式で、地域病院を創ることに取り組んでいる人もいます。
可能性はまだありそうです。
経世済民を目指す金融を取り戻せないものか、少し考えてみる予定です。
投資ファンドの世界は、私にはどう考えても理解できない世界です。
| 固定リンク
「経済時評」カテゴリの記事
- ■政治とお金の問題の立て方(2024.02.02)
- ■デヴィッド・ハーヴェイの『反資本主義』をお薦めします(2024.01.18)
- ■一条真也さんの「資本主義の次に来る世界」紹介(2023.12.14)
- ■資本主義社会の次の社会(2023.10.10)
- ■「資本主義の次に来る世界」(2023.07.24)
「企業時評」カテゴリの記事
- ■がん民間療法体験26:天日塩の入った味噌(2023.10.16)
- ■『働きがいのある会社とは何か 「働きがい理論」の発見』をお勧めします(2022.11.18)
- ■20年ぶりにかっぱ寿司に行きました(2022.10.04)
- ■原発事故の損害賠償を受ける覚悟があるのでしょうか(2022.07.13)
- ■「新しい経済」に向けての2冊の本をお薦めします(2022.05.18)
コメント