■金融資本が創り出した損失を埋める人は誰か
金融不況がじわじわと日本企業にも影響を与えだしているという報道が多くなってきました。
たとえば、トヨタ自動車の米国での販売が減少し、生産を減らすために、その周辺で派遣社員の契約打ち切りが出てきているそうです。
その報道をしていたテレビの中で、派遣社員の人が、事情はわかるがどうして自分たちのような労働者がそれを引き受けなければならないのか、と話していたのが印象的でした。
派遣契約を打ち切られると、今まで宿泊していた寄宿舎まで出なければならない人も多いようです。
契機が悪くなったら、労使一体となって苦境を乗り切る時代は終わったのです。
会社というものが変質してしまったのです。
まずは派遣社員の契約を打ち切れば、さし当たってのコスト流出は防げます。
経営者にとっては、痛みなどあまり感ずることもないわけです。
それにしても、つい最近まではあれほどの好業績だったトヨタが、販売が下がっただけでこんなことをしていいのでしょうか。
どこか間違っています。
トヨタの社長は私と同年齢です。
おかしいと思わないのでしょうか。
こういう人たちが経団連などの役員となって、日本の産業政策や経済政策を動かしていくことを思うと、日本の先行きには明るさを感じられません。
渡辺社長は、これまでの奥田さんや張さんとは違うと思いたいのですが。
今日はまた、京品ホテルがリーマン破綻の余波で売却されることになり、従業員一斉解雇の報道がありました。
社長と従業員のやり取りが報道されていましたが、真面目に働いていた従業員たちはやりきれないでしょう。
ホテルは決して赤字ではなかったようですから。
詳しくは分かりませんが、これは金融資本による「振り込め詐欺」と言ってもいいような構造を感じました。
金融資本のやり口は簡単です。
すべてを証券化し、その証券を見栄えの良いものに化粧します。
お金がお金を生むことを不思議に思わない人が、不労所得を得ようとその証券と自らの実業を交換します。
つまり自らの実業を証券化してしまうわけです。
その証券には、実は実業で働いている従業員の生活さえもが取り込まれていることに気づかずに、お金の論理で判断してしまうのです。
証券化した途端に、自らの運命は金融資本に預けたも同然です。
カジノと同じで、客を勝たせたり負かせたりするのは、胴元にとっては容易なことです。
役目が終われば、裸にされて放擲されるわけです。
金融資本が創り出した損失を埋める人は3種類いるようです。
まずは、金融資本による「振り込め詐欺」被害者です。
自分の実業を「振り込んだ」経営者やヘッジファンドの出資者がそうです。
好調に売れる時には何の疑問も抱かずにどんどん生産し、いざ売れなくなるとそれまで依存していた派遣社員を簡単に切り捨てる人たちも、含ませていいかもしれません。
その人たちは、最初から金融資本の対象にされていた人たちですし、自らもちょっと欲を出しすぎたのですから、まあ自業自得です。
しかし、ヘッジファンドの出資者も含めて、彼らは被害者であると同時に加害者でもあるのです。
彼らの行為によって、人生を変えさせられた被害者が、金融資本が生み出した損失を埋める第2の人たちです。
そして3番目は、いうまでもなく金融システムという社会システムの利用者である、すべての人たちです。
負担の度合いは大きく違いますが、加担の度合いも大きく違います。
ちなみに、金融資本が生み出した損失の多くは、金融資本の「勝ち組み」に収穫されている事実も忘れてはなりません。
みんな損をしているように見えますが、誰かが大きな利益を上げているからこそ、こうしたことが繰り返し起こるのです。
そこから身を守るのは、お金依存の生活からできるだけ距離を置くことしかありません。
お金などなくても、汗を流して、人を助けていれば、お天道様は支えてくれる、そんな経済社会はもう昔の夢物語なのかもしれません。
でも真面目に働いている人が路頭に迷うような社会は続くはずがありません。
きっとまた、お金がなくても支えあう社会になっていくでしょう。
私が生きている間には無理かもしれませんが。
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