■田母神事件の犯罪性
このブログに田母神事件を書いたおかげで、アクセスが急増し、コメントや個人宛のメールもかなりありました。
いささかうんざりしていますが、私の意図がうまく伝わっていないようで、論文を読んだのか、論文のどこが悪いのだと、お叱りのメールをいくつかいただきました。
あえて反論するまでもないことですが、私の書き方が悪かったことを反省して、少し蛇足的な記事を書くことにしました。
私が2つのブログ記事で書いたのは、田母神前空幕長が公務員として犯罪を犯しているのではないかということと、そうしたことを放置している政府の姿勢への批判です。
田母神論文の内容もひどいとは思いますが、それは批判の対象ではありません。
考え方はいろいろありますので、それ自身は批判すべきではないと思っています。
犯罪とは、悪事を働くことではありません。
法治国家においては、犯罪とは法違反行為のことです。
もっとも、「法」の捉え方はいろいろとあって、実定法だけか自然法まで含めるかで変わってきますが、基本は実定法違反と考えるべきでしょう。
そうした場合、犯罪の被害者は基本的には「国家」もしくは「社会」になります。
もちろん実際の事件では、加害者と被害者という「人間」の関係は存在しますが、日本の現在の司法の世界では、国家の秩序を守ることが最優先されますから、裁判には被害者はほとんど関われません。
とりわけ刑事事件や行政事件の場合は、国家秩序の視点が基本に置かれています。
光市母子殺害事件のことを思い出せば、納得してもらえると思います。
そうした応報的な司法のあり方の見直しの動きはありますが、近代国家体制を前提に考えれば、その基本枠組みを変えるには、まさに本当の「司法改革」発想が必要です。
犯罪が法違反であるという前提で考えると、私にはどう考えても田母神前空幕長の言動は犯罪に見えてきます。
まず「違憲判決など関係ない」というのは、明らかに法違反行為です。
それは憲法なんかは関係ないという意味を持っていると思います。
国家公務員としては、国家に対する反逆行為を構成するはずです。
次に、侵略国家論ですが、これも正式な政府見解に反しますから、公務員としての職務規定に反しているはずです。
公務員は政府の方針に従い、主観的にではなく与えられた業務を忠実にこなすことが求められているはずです。
とりわけ自衛隊のような軍事力を持つ組織は、暴力を発揮する権限を政府(国民)から与えられているわけですから、勝手な主観で動くことは禁止されています。
それがなければ国家は壊れます。つまり守れないのです。
日本の官僚制度は破綻していると思いますが、もっとも強い規律を求められる自衛隊にまでそれが広がっていることの意味は問い直されるべきでしょう。
中央省庁の不祥事は、私にはいずれも国家に対する反逆行為に見えます。
しかし、ややこしいのは、彼らはいずれも国家から授権されているのです。
コラテラル・ダメッジさえ許されるわけです。
職務違反したら、普通は懲戒解雇されますが、公務員の場合は、そう簡単ではありません。
事実、田母神前空幕長の懲戒解雇には半年かかるというような答弁が、閣僚からあったように思います。
国民の政府ではなく、官僚たちの政府になってきているとさえ思いたくなります。
彼らはやりたい放題なのかもしれません。
私が田母神前空幕長を批判するのは、彼が国家に反逆しているからです。
もし彼が反逆していないのであれば、そこにこそ今の日本の政府の本質があるわけです。
余計なことを加えれば、田母神前空幕長の言動は、国家に対する「侵略行為」のように思えてなりません。
したがって、田母神前空幕長が日本は侵略国家ではなかったと思っていることの意味はよくわかります。
侵略の意味が、私とは全く違うのですから。
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コメント
田母神食元空将の論文は犯罪ですか?
確かに上司の了解を得ないで論文を発表したことは
規律違反に間違いがありませんが、それが犯罪者扱いとは・・・・
あきれちゃいます。
時の政府の見解と違うことを発表することが犯罪ならば、
個人の思想をも取り締まるということですね。
それではまるで中国やロシア、あるいは北朝鮮とまったく同じですね。
日本の憲法では個人の思想や言論は保障されております。
政府見解と同じ場合において保障ではありません。
そういうのを言論統制と言うのと違いますか?
投稿: 畑山 | 2008/11/12 00:15