■節子への挽歌505:「見かけは元気」
節子
昨日、思わぬ人からの電話です。
先日電話をくれたマレーシアのチョンさんが日本に来たので会いたいというのです。
日本にくるかもしれないと言っていたので、もしかしたらとは思っていましたが、あまりに突然でした。
幸いに在宅だったので、自宅に来ないかと言ったのですが、仕事の関係で時間がとれないというのです。
それで上野まで会いに行きました。
全く変わっていませんでした。
そして、節子がいつも言っていたように、「陽気なチョンさん」ぶりも変わっていませんでした。
前にも書きましたが、アジアからの留学生の集まりの場を提供し、私たちとして何かできることを考えたいという思いで始めた留学生サロンは、あまりうまくいきませんでした。
最初の集まりで感じたのは、留学生たちの「疑いの目」でした。
日本人に対する不信感のようなものを感じました。
それはそうでしょう。
見ず知らずの人が急に声をかけてもどこか胡散臭い感じです。
実際にいろいろとひどい目に会った人もいるようでした。
みんな日本人に対して、あまり良い印象を持っていませんでした。
そういう場に、しかし節子がいることで雰囲気はかなり変わりました。
節子がいることで、安心感を与え雰囲気を和らげる場面は、留学生サロンに限らず、いろいろとありました。
私のさまざまな活動は、そういう意味でも節子に支えられていました。
当時、私はあまりにもたくさんのテーマに取り組みすぎており、留学生サロンもその一つでしかありませんでした。
問題に出合うとすぐに何かやりたくなってしまい、みんな中途半端に終わってしまう私の性格は今もあまり変わっていませんが、留学生サロンは節子はたぶんもう少し続けたかったのではないかと思います。
しかし同居していた私の母の介護や節子自身の体調不振が起こり、しかも、私が時間破産に陥ったりして、2年ほどで終わってしまいました。
その後も何人かの留学生はやってきてくれていました。
チョンさんはその一人でした。
チョンさんは会うなり、佐藤さん、元気になってください、と言いました。
元気だよと応えると、見かけは元気ですね、とすぐ反応しました。
「見かけは元気」
そうなのかもしれません。
チョンさんはいまインドネシアで仕事をしていますが、最近、40代の友人を病気で突然失ったのだそうです。
医療環境の遅れから、インドネシアで病気になると大変なのだそうです。
若い友人を失うことの辛さを、陽気なチョンさんは笑いながら話しましたが、きっとそれは「見かけ上の陽気さ」だったのでしょう。
彼自身、いろいろと不安や悩みを抱えています。
しかしそんなことは全く表情に出さずに、いつものように陽気に笑います。
奥さんは佐藤さんの同志だったのですよね、というようなことも言ってくれました。
昔の話をいろいろとしてくれました。
節子が元気だったころの話をしているうちに、私も元気をもらったような気がします。
別れ際にチョンがまた言いました。
「佐藤さん 元気になってくださいよ」
見かけ上の元気では、彼はどうも安心できないようです。
今度来日したらわが家にくることを約束して別れました。
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