■福祉政治の視点で政治や経済を見ると問題が見えてきます
「経済の安定的な成長のためには投資のみが過大であってはならない」
これは、1958年の経済白書の言葉です。
当時の経済企画庁は、「格差の是正を経済成長の要件とするという発想で、急速な成長から取り残されやすい農業部門や自営業者を社会保険に包摂し、格差の広がりを是正することが持続的な成長のために必要であるというものだった」(宮本太郎「福祉政治」)そうです。
政府は、生産重視の急速な成長戦略に慎重だったわけです。
宮本太郎さんの書いた「福祉政治」(有斐閣)は日本の政治経済の流れを俯瞰する上で、とてもわかりやすい本です。
経済も政治も、もしそれが国民生活のためにあるのであれば、福祉の視点から見ていくととてもよく見えてきます。
著者は、生活保障をめぐる政治を福祉政治といい、生活保障を雇用保障と社会保障に分けて整理しています。
日本が1980年代まで格差の拡大を起こさずに、経済を成長させられたのは、雇用保障が基軸にあったからだということが、本書を読むとよくわかります。
その大きな枠組みが変わったのは、1990年代の半ばからです。
昨今の派遣社員制度も、雇用保障をベースにして構想され運用されていたら、たぶん今とは全く違ったものになっていたでしょう。
しかし、派遣社員制度は、生産の急拡大と投資利益拡大のための労働力管理の手段になってしまいました。
そこには生活する側の労働者の就業の場という発想はありません。
つまり、働く人の生活が切り離され、見えなくなってしまったのです。
そこで雇用ではなく、福祉保障へと軸足が変っていったということになります。
そうした動きの背後には、家族制度、さらにはそれを支える文化の問題があります。
おそらく1980年代までと現在とでは、そうした文化が全く変質してしまったのです。
だから失業の問題が、即、住む場所の問題に直結してしまったのです。
極端に言えば、社会は壊れだしているわけです。
経済や政治が壊れだしているのではありません。
唐突に「福祉政治」のことを書いてしまいましたが、最近の政治や経済の動きを見ていると、何のための政治や経済なのだろうかと思うことがよくあります。
「福祉政治」や「生活政治」の視点で考えると、そうしたことも含めて、現実の問題が見えやすくなります。
経済は「文化の問題」であって、「政治の問題」ではないのです。
政治も「文化の問題」であって、「経済の問題」ではないのです。
肝心の「文化」が、今の日本から抜けてしまっているような気がします。
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