■節子への挽歌601:指の魅力
動物行動学の竹内久美子さんの書いた「遺伝子が解く!男の指のひみつ」という本に、薬指の長い男性はよくモテると書いてあるそうです。
そのことを紹介している本に、女性はどうも男性の指に魅力を感ずるようだということが書いてありました。
女性にも持てるための本などという種類の本ではありません。
「雇用はなぜ壊れたのか」(ちくま新書)という本に出てくる話です。
それを読んで思い出したのが、節子のことでした。
節子は、私にそう惚れ込んでいたわけではありません。
節子が惚れたのは、前にも書きましたが、唯一、私の指だったのです。
残念ながら私の指の薬指は長いわけではありません。
そうきれいな指でもないのです。
しかし、なぜか節子は私の指が大好きだといつも言っていました。
まあ、それ以外ほめるところがなかったのかもしれませんが。
節子にほめてもらった、その私の指も、いまは単なる老人の指になってしまいました。
私が好きだった、節子の髪の毛を梳ることもなく、頼りない節子の手を引くこともできずに、ただ毎日、無為に過ごしているだけですから、指も老いるだけなのでしょう。
節子はやや冷え性でした。
ですから手足がいつも冷たかったような気がします。
私は逆で、いつも手足が火照る感じでした。
寒い冬には、私の手が節子の手を温め、熱い夏は節子の手が私の手を冷やしてくれました。いささかロマンチックな話ですが、それはそのまま私たちの関係でもありました。
単純に熱くなりがちで自分を忘れがちな私を、節子はクールになだめてくれました。
25年、私は会社に勤めましたが、辞めるといいだした時に、節子が言った言葉は、「よく25年ももったわね」でした。
たしかに、25年とは、われながらよく続きました。
それを支えてくれたのが、節子でした。
何の話でしたっけ?
指の話でしたね、すみません、
電車の中で、その指の話が出ている本を読んでいたのですが、
ふと指を見たら、老いているだけではなく、爪がとても伸びていました。
爪が伸びても、注意してくれる人がいないことはさびしいことです。
そう思ったら、本が読めなくなりました。
まあこんな話からも、節子のことを思い出すのです。
もう一度、きちんと指を手入れして、その魅力で節子を呼び寄せられないものでしょうか。
そう思いながら、爪の手入れをしました。
指に惚れた節子が、ひょっこり戻ってくるかもしれません。
何しろ節子は、私の指が大好きでしたから。
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