■節子への挽歌701:小浜の妙楽寺の千手観音
節子
昨日、福井の小浜に行きました。
鵜の瀬と羽賀寺に行きたかったのです。
いずれも、以前、節子と一緒に行ったところです。
小浜は、奈良までつづく「かんのんみち」の始まりのまちです。
東大寺の二月堂のお水取りには、ここからお水送りされるのです。
その時には遠敷川の鵜の瀬の水位が下がるのです。
その場所をもう一度見たくなったのです。
ところが、私の記憶にあった鵜の瀬の風景と全く違った風景がそこにありました。
私の記憶にある鵜の瀬は、瀬の中に小さな鳥居があるのですが、いくら探してもありません。
資料館にいた古老に訊いたのですが、この風景は変わっていないというのです。
その上、お水取りで水位が下がる話も知らないというのです。
なにやらパラレルワールドの鵜の瀬にきたような気分になってしまいました。
実はこうした体験は、節子がいなくなってから時々あるのです。
私の周りの世界は、もしかしたら異次元世界にスリップしたのかもしれません。
しかし羽賀寺は、記憶どおりの観音でした。
ここの十一面観音は小浜で一番の観音だと思いますが、お参りする人もおらず、在所の人が退屈そうに番をしていました。
お守りしていて気持ちは変わりますか、といかにも誤解されそうな質問をしたのですが、穏やかそうな表情の方でした。
誰もいない本堂で、仏たちと一緒にいるときっと自分がよく見えてくるのではないかと少しうらやましい気持ちがしました。
せっかく小浜まで来たので、まだ行ったことのない妙楽寺も訪ねてみました。
ここには24面の千手観音がいるのです。
写真では見ていましたが、実際にはお会いしたことがなかったのです。
壊れそうな、いや壊れかけた寂れた本堂でした。
案内する人もいなかったので、観音の前でしばらく休んでいました。
そのうちに、千手観音の顔が、どこか初めて会ったころの節子に似ていることに気づきました。
もちろん節子のほうがずっと美人なのですが、どことなく似ているのです。
そっと声をかけてみましたが返事はありませんでした。
そういえば、千手観音の前に見たこともないような文字が書かれていました。
朝、急に小浜に行きたくなったのですが、もしかしたらこの千手観音が呼んでくれたのかもしれません。
そして、お前のいる世界はもう変わったのだよと教えてくれたのかもしれません。
私はまだ「今生」にいるのでしょうか。
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