■節子への挽歌859:節子さんによろしくお伝えください
節子
武田さんからの伝言です。
今日届いた彼からの年賀状の最後に書き添えられていました。
節子さんによろしくお伝えください。一応、伝えておきます。
「武田は元気です」と。
事実、武田さんは元気ですが、まあ私と同じで、人生を浪費しています。
武田さんはサロンによく来ていましたが、なぜか私と意見が違う時などは節子と話していました。
そのせいか、私の味方は奥さんだけだったなどという「誤解」さえしているようです。
私たちたち夫婦を私以上に美化して評価してくれていたのが武田さんかもしれません。
私が節子をどのくらい愛していたかを理解していた一人です。
もちろん武田さんの理解よりも、実際には深いのですが、はい。
武田さんも死につながる病気の体験者であり、いまもなそうした病気を抱えています。
しかし、一度ふっ切れたためか、死に対しては実にあっけらかんとしています。
死神に嫌われたのかもしれないほどに、元気なのです。
そういえば、いま気づきましたが、それほどの大病にも関わらず、私はお見舞いをするのも忘れてしまっていました。
まあそれほど元気で、病気の気配など見せないのです。
その武田さんは、しかし節子にいろいろとアドバイスしてくれていました。
武田さんと節子とは文化が違いますから、節子がそれを受け入れられたかどうかわかりません。
たとえば、とても癒されると言って、本田美奈子のアヴェマリアのCDを持ってきてくれました。
節子は、少し悲しすぎると言ってあまり聴きませんでしたが、そうした武田さんの心遣いには深く感謝していました。
死に直面している人同士には奇妙な心のつながりが生まれるようです。
私とは違った節子が、武田さんには見えていたのかもしれません。
節子もまた、私が見ている武田さんとは違う武田さんが見えていたのかもしれません。
武田さんは今も時々電話をくれます。
昨日も長電話でした。
しかしもしかしたら、武田さんに見えている私は、もはやこの世に生きている人間ではないのかもしれません。
昨日も、佐藤さんはこの世の人ではないようだと言っていました。
もしかしたら、その武田さんの判断は正しいのかもしれません。
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