■重大犯罪の服役者、出所後3割が再犯がいうことの意味
今日、法務省から発表された「犯罪白書」によると、出所した服役者の再犯率が高くなっているそうです。
これは大きな問題です。
裁判ではよく「更生の可能性がある」という理由で刑が軽くなることがありますが、可能性がしっかりと現実のものにされる仕組みがないということです。
司法制度の目的は「裁く」ことにあるのではありません。
社会の秩序を維持して、みんなが安心して暮らせる社会にすることにあります。
刑務所の役割は、処罰と共に更生にあると思いますが、更生は刑務所だけで取り組める問題ではなく、社会の仕組みにも大きく影響しています。
裁判員制度によって、一般生活者が裁判に参加させられるようになってきていますが、その前に取り組むべきは処罰・更生の仕組みへの参加だったのではないかと思います。
ある本(「アメリカン・デモクラシーの逆説」)によれば、アメリカでは収監者100人当たり約30人のスタッフが雇用されているそうです。
「監獄の運営を含め、警備・拘禁・矯正に関係するセキュリティ・サービス産業は、アメリカ国内の三大民間雇用企業(ウォルマート、マクドナルド、UPS)の総従業員数を超える雇用を創出している」とも書かれています。
「軍産複合体」ならぬ「獄産複合体」と皮肉る向きもあるそうです。
人間の生存に関わるセキュリティの問題は、社会当地のど真ん中にあるテーマです。
そこを押さえれば、社会は如何様にも動かせるのです。
ところが、いまそのセキュリティが危ういものになってきています。
これは「統治の失敗」とも考えられますが、むしろ「統治の手段」とも捉えられるところが悩ましいのです。
アメリカでは「恐怖の文化」が広がっています。
そうした状況の中で、監視社会化、訴訟社会化が進展してきているわけです。
信頼関係が大切だという、ソーシャル・キャピタル論議が高まっている背景には、言うまでもなく、それが欠落してきているという現実があるわけです。
幸いに日本はまだ「恐怖の文化」が広がっているわけではありません。
しかし状況はさほど楽観はできません。
そのひとつの兆しを、私は再犯率の高まりに感じます。
いささか極端な暴言を吐けば、再犯率が高まれば高まるほど、実は司法にとっては自らの存在価値を高め、活動がしやすくなるという、皮肉な現実もあります。
個々にも、近代が抱える「ジレンマ」があるのです。
ジレンマは、産業のジレンマだけではないのです。
人を裁くシステムを根本から問い直す時期ではないかと思います。
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