■節子への挽歌1282:房総の花
節子
ジュン夫妻が房総半島に行って、早春の花をお土産に持ってきてくれました。
節子と一緒の最後の家族旅行は房総半島でした。
節子は、好きな花と好きな家族を満喫してくれたと思います。
ユカが宿と食事処を決めてくれました。
鳩山家の別荘だったところに泊りましたが、安いプランだったので部屋はあまりよくありませんでした。
いまはもう思い出せませんが、貧乏性の節子と私が、きっと安いプランを選んだのでしょう。
私たちは、最後まで貧乏性でした。
私の記憶では、節子に贅沢をさせてやった記憶がありません。
節子が贅沢をした記憶もありません。
慎ましやかに生き、慎ましやかに終わっていく、それが私たちの生き方でした。
それが最後の旅行になると知っていたのは、節子だけだったかもしれません。
少なくとも私は、そうは思っていませんでした。
最後だと思えば、これまでなかったような贅沢な部屋を用意したでしょうに。
どこまでも愚鈍で、思いやりの欠落している夫でした。
現実がまったく見えていなかったのです。
その頃は節子だけでなく、家族みんながそれぞれ疲れていましたが、自動車での一泊二日の旅行は、思い出したくなくても思い出してしまうほど、いろいろなことがありました。
節子は歩くのも大変だったかもしれません。
しかし私たちと一緒に、歩いてくれました。
ゆっくりと、ゆっくりと。
私には、そんなことができるでしょうか。
節子は、私と正反対に健気な人でした。
ジュンたちのお土産の花は、いろんなことを思い出させてしまいます。
やはり私にはまだ、房総半島は思い出したくない場所のひとつのようです。
節子は花を喜んでいるでしょうか。
あの時、節子がおいしそうに食べた金目鯛を思い出します。
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