■東北文化の復権
東日本大震災は、社会の流れを変えるかもしれないほどのさまざまな動きを生み出しています。
それは、東北の被災地だけの話ではないかもしれませんが、現地での体験談などを聞かせてもらうと、これまでとは発想を変えた動きの萌芽を感じます。
いま、悪性の親知ら歯の抜歯で、入院7日目です。
その病院のラウンジに、佐治芳彦さんの「謎の東日流外三郡誌」の本がありました。
私が読んだのは、もう30年ほど前の本ですが、懐かしくて読み直してみました。
読んでいるうちに、これは偶然ではなく、大震災後の希望を私に教えてくれたのではないかという気がしてきました。
「東日流外三郡誌(つるがそとさんぐんし)」は、東北で保存されていた古史古伝の一書です。
そこには、古事記や日本書紀とは違う日本の歴史が書かれていますが、日本には日向族と荒吐族の2つの社会があったというのです。
日向族は大陸からの征服民族、荒吐族は日本列島に土着していた民族です。
そして、荒吐族は東北に民主的な古代社会連邦を打ち立てていたというのです。
佐治さんの本には、その社会がこう紹介されています。
「一族の長を荒吐5王と称し、火司土司金司水司木司の5役を称して5役とす。その社会では、相互扶助の仕組みがしっかりと構築されていたばかりか、その精神が「民」だけではなく、指導者にも徹底していた、といいます。
5王たる者は一族を護るための導者にして、倭国の天皇たるごとき君主に非ず。
5王は自ら導者として労し智覚を学び、常に一族の異変ありし時は自ら赴き是を鎮ましむ大責任の主なり。
5王は一族の長老が談義して定む。
亦長老は一族の中より一族諸居住地より選抜され、智の優れたる者を長老とし、その条は老若男女を問わず過去現在未来を智覚し一族隣栄のため諸義し相謀り決否して5王への司政をたすく者を長老とし、その数若干なり」 (荒吐神之瑞章第二)
そのため荒吐族には日向族のような甚だしい貧富の差は生じなかった、と佐治さんは書いています。
また凶作の年には、「荒吐5王は互いに救ひ合うて凶地の民を安住の地に移らしむ」という方法を講じたりできるように、5王間には災害時の相互扶助協定もできていたそうです。
そのうえ「一食一汁たりとも吾が己有の物なく5王の民共有の物なり」。毎日の食糧も自分のもの=私有ではなく,5王の民の共同財産だという徹底した考えだったといいます。
ローマとは違ったゲルマンの総有制を思い出します。
猛々しい日本武尊が後半、愛の人になったのは、東日流との出会いだったのではないかと佐治さんは書いています。
日本史を貫く2つの基本的原理、「縄文的なもの」と「弥生的なもの」は、ともするとイメージが逆転していると私は思っていますが、東北には古来、豊かな人の支え合う文化があったのです。
辺見庸さんは、これほどの規模の震災を経験して、日常に戻るとしたら意味がない、と言っていました。
同感です。それは、あまりに哀しい。
新しい社会原理の方向性が、荒吐の東日流にあるように思いました。
| 固定リンク
「社会時評」カテゴリの記事
- ■世界がますます見えなくなってきています(2024.06.02)
- ■人間がいなくなった廃墟の中で生きていませんか(2024.05.09)
- ■共同親権が国会で議論されることの意味(2024.04.17)
- ■なぜみんな地域活動が嫌いになるのか(2024.04.04)
- ■あまりに予想通りで実に残念です(2024.03.25)
「文化時評」カテゴリの記事
- ■「詩の変革力を心から信じています」(2024.02.21)
- ■パンのためのバラ(2019.08.21)
- ■日馬富士が断髪しながら貴ノ岩に語りかけていたのを見て幸せになりました(2019.02.03)
- ■前の記事の補足です(2018.09.30)
- ■「アイヌ民族否定論に抗する」をお薦めします(2018.09.30)
コメント