■サブガバメントとしての原子力共同体
九州大学副学長の吉岡斉さんの科学技術観は共感できるところが多く、その著作には教えられることが多い方のお一人です。
いまから10年以上前に出版された「原子力の社会史」(朝日選書)は、日本の原発行政や原発研究への冷静な評価をしている本です。
この本を読んだことのある人であれば、今回の福島原発事故に関しても、想定外などという言葉は使わなかったでしょうし、管政権の枝野さんのような失策はしなかったでしょう。
もう一つの「政府」に対抗した対策をうてば、事態はここまでにはいたらなかったという気がします。
吉岡さんの議論は、日本の原子力開発が、国家政府と切り離された「サブガバメント」に牛耳られているという認識からスタートします。
しかも、そのサブガバメントは二元体制になっており、それぞれが互いの権益に必要以上には口を出さない構造になっているといいます。
さらに悪いことに、日本では大学の学者たちはそのいずれかを補佐する役割に甘んじ、結果的にはいずれかに組み込まれているというのです。
二元体制とは、「電力・通産連合」と「科学技術庁グループ」です。
その「2つのサブグループから成る原子力共同体が、原子力政策に関する意思決定権を事実上独占し、その決定が事実上の政府決定としての実効力をもち、原子力共同体のアウトサイダーの影響力がきわめて限定されてきた」と吉岡さんは上記の著書に書いています。
ではその原子力共同体は、どこと結びついていたのか。
それはともかく、こうした体制への舵を切ったのは、中曽根さんの時代です。
日本の現在の不幸は、私にはすべて中曽根政権から始まったような気さえしています。
原子力共同体は、それまでの日本の地域住民共同体を壊すことによって、原発を広げてきました。
そこでばらまかれたのは「お金」です。
いまも上関町でばらまかれていますが、「お金」は麻薬と同じで一度その味を覚えたら抜け出られずに、身を滅ぼします。
細野さんや枝野さんの原発事故対策にまつわる発言を聞いていると、いつも危うさを感じます。
彼らが、もう一つの政府の広報マンになりはしないかという危惧です。
まあ私の杞憂だとは思いますが、原子力共同体の強さは見くびれません。
吉岡さんの「原子力の社会史」は名著だと思います。
その改訂版がまもなく出版されるそうです。
ぜひ多くの人に読んでほしい本です。
私も今日、予約しました。
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