■節子への挽歌1710:武田さんの心配
節子
武田さんから電話がかかってきました。
私は今、あるちょっとした問題に関わっているのですが、それを心配しての電話です。
私はいま、知人の事業家の事業再生の相談に乗っているのですが、私が巻き込まれて、自宅も手放し、路頭に迷うのではないかと武田さんはすごく心配しています。
実は、先日、私自身も少し心配になって眠れなくなったことがあるのですが、その話をうっかり武田さんにしてしまったのです。
なにしろ私は隠すということができない単細胞で、ついつい言わなくていいことが口から出てしまうのです。
その時の私の様子が、これまでになかったような深刻さを漂わせていたそうです。
今まであんな佐藤さんは見たことがないと、武田さんは言うのです。
心配させて悪いことをしてしまいました。
持つべきものは友だちだと思い一瞬感謝の念をいだきましたが、その後の武田さんの言葉でその念は消え去りました。
奥さん、つまり節子のことですが、節子の押さえがあったのでまあ大丈夫だったけど、佐藤さんは馬鹿だから、それがなくなった今、何をするかわからないというのです。
まあ私はあんまり賢くはないのですが、こう正面から当然のように馬鹿といわれるとは困ったものです。
まるで節子よりも私のほうが馬鹿みたいではないですか。
まあしかし、武田さんも馬鹿なので、許すことにしましょう。
馬鹿のよさは馬鹿だけが知っているものですから。
まあそんなことはどうでもいいのですが、武田さんから見ると、私は節子のおかげで道を外していなかったようなのです。
その節子がいなくなったので、武田さんは心配してくれているのです。
やはり感謝しなければいけません。
伴侶を亡くして、投げやりになったり、無分別の行動をとったりしてしまう人もいるようです。
しかし私は伴侶がいる時から、けっこう無分別だったからその心配はありません。
武田さんは保証人になると大変だというのですが、それは娘からも言われています。
私はお金は持っていませんが、不幸にしてわが家の所有名義は私になっているのです。
武田さんはそれを心配しているのです。
節子名義にしておくべきでした。
資産家は辛いものです。いやはや。
しかし、それにしても、武田さんはいつも節子の肩を持ちます。
私在っての節子だったことをいつか思い知らさなければいけません。
しかし、その前に今の事業再生の課題を乗り越えないといけません。
さてさてうまくいくでしょうか。
私を信頼してお金を提供してくれた人のために、がんばらなくてはいけません。
うまくいけば、私の会社の借金も返せるかもしれませんが、うまくいかない場合は、さてどうするか。
それが問題です。
人生はなかなかうまくいきません。だから人生なのですが。
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