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2012/07/26

■「知識」は現実を見えなくする

「現実」からではなく、「知識」で語る人がますます増えてきました。
「知識社会」とはこういう社会だったのかと、最近は少し生き辛さを感じています。
「知識」は現実を見えなくするのかもしれません。
私も、おそらくそうした落し穴に陥っているのでしょう。
心しなければいけません。

昨日の「無駄遣いの時代から抜けられない無念さ」の記事を読んだ方が、フェイスブックでコメントしてくださいました。
誠実なコメントであり、コメントくださった方には決して他意はないのですが、とてもわかりやすいので使わせてもらいます。
お許しください。

コメントの一部を引用します。

大飯が再稼働したからといって、節電目標は取り下げられていません。なぜなら、関電は同時にコストが高い火力発電所を停止したからです。もともと再稼働の問題は、電気の需給問題ではなく電力会社の経営問題だそうです。
ここで気になるのは次の2つの文章です。
「コストが高い火力発電所」
「再稼働の問題は、電気の需給問題ではなく電力会社の経営問題」
よく言われていることですが、これこそが「知識からの発想」の好例のような気がします。

まず前者から。
原発よりも火力発電のほうは発電コストが高いと言われています。
制度的には正しいでしょう。
しかし、現実はどうでしょうか。
今回の福島事故で、かなり実体は見えてきたはずです。
いうまでもなく、発電コストは「制度的に算出」されます。
環境経営が叫ばれていた頃、社会的費用の問題も含めた、ライフサイクルコスティングの発想が少しだけ広がりましたが、どこまでを考慮するかで、算出結果は全く違ってきてしまいます。
原発のコストを高くするか低くするかは、極端に言えば、その時々の政策判断や産業界の利害に大きく影響されるのです。
1970年代でも、原発コストはそれまでの発電方式に比べて、かなり高くなるという算出結果は一般的な書籍でも発表されていました。
つまり、発電コストとは、制度や方針によって生み出された「知識」であって、現実の一側面なのです。

最近では、さすがに原発コストが火力発電コストより安いと思っている人はいないと思っていましたが、私の勘違いでした。
聞いてみると、意外と、そう思っている人が多いのです。
刷り込まれた知識が、現実を創り出していくという言葉を思い出します。
しかし、現実を見てもらえば、被曝地域の損失は経済計算できないほどに巨額です。
つまり保険さえ成り立たない世界に、従来と同じコスト概念を持ち込んで比較すること事態に問題があるような気がします。
「知識」としてのコストの概念を、「現実」に即して、変えなければいけません。

次に、後者の、「原発再稼動は経営財務の悪化を防止するため」という話です。
これも有名な話で、よく聞かれますが、これこそがこの数十年広がっている「金融工学主義」の罠の一つです。
極端な話をすれば、廃炉してしまうと資産計上できなくなりますが、再稼動すれば、資産になります。
資産計上できなくなると一挙に財務状況は悪化します。
廃炉しなくとも、稼動しなければ、巨額な資産が利益を生み出さずに、減価償却も含めて巨額な支出を出し続けます。
だから再稼動しないと企業経営が成り立たないというわけです。
この議論を聞いて、みなさんは納得するでしょうか。
制度的な論理、あるいは知識としては、納得するかもしれません。
でもどこかおかしいと思いませんか。
なぜそれが再稼動につながって議論されるのか、
会社経営を成り立たせるために再稼動するなどという発想が、ありえないことであるのは当然です。
会社経営を維持するために、賞味期限を書き換えて出荷するのと、どこが違うのか。
問題を摩り替える議論に、安直に納得してはいけません。
もし再稼動しないと財務的におかしくなるのであれば、その財務計算制度を変えればいいだけの話です。
実体と切り離された制度は、実体と関係なく、変更できます。
それが「知識人」の得意技なのです。

東大の安富歩教授が、昨年、「原発危機と東大話法」という本を出しています。
とても面白いですが、この2つの事例もまさに、安富さんが言う「東大話法」の例でしょう。
但し、そうした話法を「東大話法」と表現する安富さんもまた、同じ穴の狢だとわたしは思っていますが。

ただ安富さんのほかの本の主張には、心から共感しています。
「東大話法」で語る人の話にも、傾聴すべきものはあるものです。

蛇足の多い記事になりました。
すみません。

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