■敦賀原発活断層問題とロック・イン現象
技術や経済の世界では、ロック・イン現象という事がよく見られます。
一度、ある状況が生まれると、その状況をベースにしてさまざまな展開が広がっていくので、最初の状況に問題が発見されても、なかなかそこから抜け出せなくというのがロック・イン現象です。
有名な話ではタイプライターの文字配列の事例があります。
初期の機械式タイプライターでは、高速に打鍵すると印字ハンマーが絡まってしまうために、連続打鍵されやすい文字をあえて離れた位置に配置したと言われていますが、その後、機械式でなくなった後も、配列は変わらなかったという話です。
こんな例であれば、そう大きな問題にはなりませんが、原発の問題になるとそうはいきません。
今の日本の社会は、原発依存度が大きくなっています。
そのため、脱原発したら雇用がなくなるとかエネルギーが不足するとか、電力コストが高くなるといわれます。
こうした発想は、まさにロック・インされた発想です。
重要なことがロック・インされると、そのシステムは進化できなくなります。
まさに今の日本は、そうした状況にあるように思います。
昨日開かれた原子力規制委員会の専門家調査団による評価会で、敦賀原発の敷地内の断層が「活断層」との見解が出されました。
それに対して、原発にロック・インされている日本原子力発電の経営陣やその関係者である技術者は大きな戸惑いとともに、反発を示しています。
敦賀市長も異論を唱えています。
ロック・インされた人には風景は違って見えるのは当然ですが、同じデータを見ても評価は全く異なってしまうわけです。
しかし、原子力規制委員会の田中委員長は、見事と言っていいほど、評価を変えています。
私は、そこに大きな不安を感じます。
田中さんは、これまではどう考えていたのでしょうか。
彼がにわかに、ロック・インの呪縛から自由になったとは思えませんが、もしかしたらロック・インの仕方が違っていたのかもしれません。
先日読んだ松本三和夫さんの「知の失敗と社会」(岩波書店)に、とても納得できる文章がありました。ちょっと長いですが、引用させてもらいます。
科学技術に関する政策をつくるという仕事には、本来の仕事で忙殺されていない科学者、技術者も含む学識経験者(ないし有識者)がかかわることが多い。
科学技術に関する政策の立案、実行には実のところ高度の専門的判断が要求されるにもかかわらず、そのような判断を体現する目利きが活用されることなく、政策の立案、実行の過程がもっぱら関係主体による利害調整の過程となる傾きにある。
とても示唆に富んでいる指摘です。
私は、田中委員長をまったく信頼できずにいます。
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