■教師や警察官の駆け込み退職とプライミング効果
制度改革による公務員の退職手当減額を前に、教員や警察官の駆け込み退職が全国に広がっているようです。
そのために現場への影響もあり、特に年度末を向かえる学校では担任や教頭までもが辞めてしまい、不在になる事例も起こりそうです。
よりによって、教師や警察官までも、と驚きです。
差額はたかだか100万円程度のようですが、そんな価格で、自分の人生を貶めていいのかと他人のことながら同情したくなります。
この話をテレビで知った時、すぐに思い出したのが、昨年読んだダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」です。
こんな実験があります。
学生に5つの単語のセットから4単語をつかって短文をつくってもらうのですが、その時に、高齢者を連想させるような単語を混ぜておくと、文章作成後、学生たちの歩く速度が遅くなるのだそうです、
これは有名な実験ですが、「ファスト&スロー」でも「フロリダ効果」として紹介されています。フロリダは高齢者の住む地域のようです。
こうした高齢というプライム(先行刺激)を受けると、老人らしく行動するという現象をプライミング効果と言いますが、それに関して、同書にはこんな記述が出てきます。
思い出したのは、この記述です。
少し短くして紹介します。
お金を想起させるものは、いささか好ましくない効果をもたらす。現代の日本社会は、まさにキャスリーンが指摘する、「お金を想起させるものに取り囲まれた社会」です。
お金のプライムを受けた被験者は、利己心が強まった。
また、お金のプライムを受けた被験者は、一人でいることを好む傾向が強かった。
この注目すべき研究を行った心理学者のキャスリーン・ヴォースは、お金を想起させるものに取り囲まれた今日の文化が、気づかないうちに、私たちの行動や態度を形作っている可能性を示唆した。
同書にも出てきますが、無作為の刺激の反復がそのものへの好意を生み出すという「単純接触効果」というのも曲者です。
物や情報に取り囲まれている私たちは、自分では意識していないうちに、「意思」を方向付けられている可能性が大きいのです。
最近の選挙の大きな触れは、そうしたことの表れではないかと私は思っています。
そして何よりも気になるのは、「お金」です。
いつの間にか、私たち日本人は「1億総守銭奴」になってしまったのではないかという気がします。
それが、教師や警察官にまで及んでいることを、今回、まざまざと思い知らされました。
体罰事件の報道が過熱していますが、駆け込み退職もまた、学校崩壊の象徴なのだろうと思います。
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