■円安を喜ぶ理由がわかりません
4年ぶりに 1ドル100円台が実現しました。
円安のおかげで、輸出企業の業績は好調のようです。
それを歓迎する風潮が高まっていますが、以前も書きましたが、「円安」を喜ぶ人の気持ちがわかりません。
単に「儲かる」だけで喜んでいるのであれば、それは納得できますが、みんながみんな、そんな守銭奴やホモエコノミクスであるようには思えません。
もし国家の役割が国民の財産を守り、生活を豊かにすることであれば、当然ながら「円高」をこそ目指すべきです。
私たちの労働の価値が、それだけ高く評価されるということですから。
最近のアメリカでは、再び、「強いドル」政策が支持されているようです。
為替問題は、経済問題というよりも政治問題になってきていますので、政策的に強くしたり弱くしたりすることが行われがちですが、そうした動きはまさに political economics であり、生活視点のエコノミクスではありません。
また、過剰な操作は、クリントン政権下のアメリカでの「強いドル」政策が過剰資金を大きく動かしてアジア通貨危機やロシア危機を起こしたように、金融工学者によって悪用されかねません。
しかし、ドルと円とは違うように思います。
私の知識では、なかなか説明はできませんが、素朴に考えて、輸出しやすいために円安を指向するという発想は、なじめません。
国民の生活を貶め、海外の企業に打撃を与え、海外の人たちに被害を与えるからです。
political economicsと生活のための経済は、まったく違います。
私の乏しい知識で感ずるのは、アメリカの経済に依存するスキームが、1990年代のクリントン政権時代に生まれたということですが、輸出に依存する経済は、決して国民を豊かにはしないでしょう。
今の日本の政財界の動きを見ていると未来が全く見えてきません。
過剰消費をあおっても、実体経済はもろくなるだけです。
経済成長は短期的なカンフル剤でしかありません。
この20年、もう十分にそんなことは体験してきたのではないかと思いますが、そうしたことに対して、みんな異常に無防備です。
私には、円安は憂えるべきことであって、喜ぶものではありません。
為替レートが1円安くなっただけで、トヨタは400億円の利益増になるとテレビで報道していましたが、そんなことで本当にいいのでしょうか。
1980年代に日本の企業に「財テク」ブームが来ました。
私が会社を辞めたのは、そうした動きに大きな違和感を持ったことが一因でしたが、当時はメーカーでさえ、ものをつくるよりもファイナンスで利益をあげたほうが儲かったのです。
そうしたことがどれほど経済の健全性を損なうか。
そして抜け出せないほどのバブルの崩壊を引き起こしました。
昨今の日本企業は、1980年代から何も学んでいません。
その後に起こった金融ビッグバンが、日本の経済をだめにするだろうと予感していましたが、まさにその方向に動いているような気がします。
私には、到底、正気とは思えません。
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コメント
連日の円安と株価上昇の報道は、参院選と消費税増税のための世論形成だと感じます。
円安株高で政権与党と経団連は喜んでいますが、一般庶民や中小企業にとっては燃料費や原材料費、電気料金、食料費の相次ぐ値上げで生活はむしろ苦しくなる一方です。
日本のマスコミはそうした負の事実を過小に報道し、円安をさもめでたい事であるかのように喧伝する報道のやり方に強い違和感を感じます。
円安と株価の上昇は、日本の労働市場を支える多くの非正規雇用労働者にとって、殆ど恩恵がありません。企業がいくら利益を上げても、彼ら非正規の賃金と不安定な労働環境は良くなりません。
日本のマスコミはいつから政権与党と経団連の広報になってしまったのでしょうか。
報道機関には大多数の『持たざる側の国民』の視点に立った報道をする事を望うかぎりです。
投稿: 草庵 | 2013/05/11 07:16
草庵さん
ありがとうございます。
>日本のマスコミはいつから政権与党と経団連の広報になってしまったのでしょうか。
全く同感です。最近のマスコミには、犯罪性さえ感じます。
もちろん円安にも良い面はありますが、その意味をしっかりとおさえて報道して欲しいです。
金融ビッグバンが日本で話題になっていた頃、私が信頼していた数少ない日経の論説委員や編集委員と話しましたが、失望しました。以来、付き合いをやめました。
投稿: 佐藤修 | 2013/05/11 07:47