■「苦しみはそれを見た者に責任を負わせる」
昨日の記事で、オッペンハイマーのことを書きましたが、私がオッペンハイマーに誠実さを感じたのは、原爆を開発しておきながら、広島や長崎の惨状を知った途端に生き方を変えたことです。
それを予想しなかった愚かしさや軽薄さ、あるいはそこからくる不誠実さを指摘することもできますが、私はやはりそこにオッペンハイマーの純粋さを感じます。
人は人である以上、過ちから自由ではありません。
しかし、過ちに気づいたときに、それをただすかどうかの自由さはすべての人が持っています。
そこが、オッペンハイマーと現在原発事故にかかわる科学者や技術者の違いです。
もちろん反原発で動いている科学者や技術者は少なくありません。
オッペンハイマーは、原爆開発のど真ん中に存在し、大統領にさえ会える立場の人でした。
ですから、在野の科学者が遠吠えしているのとは全く違うのです。
そこに誠実さを感ずるわけです。
フランスの哲学者P・リクールは、「苦しみもまた義務を生み出す。苦しみはそれを見た者に責任を負わせるのだ」と言ったそうです、
そして、その責任を人生をかけて果たした人は少なくありません。
たとえば水俣病に出会ってしまった医師の原田正純さんは、間違いなく、その一人です。作家の石牟礼道子さんもそうでしょう。
古い話では、宮沢賢治がそうだったに違いありません。
この人たちは、歴史にも名を残しましたが、名前を残すことなく、誠実に生きた人も少なくないでしょう。
いやむしろそうした人たちが多いに違いありません。
そのことのすごさに、私はいつも身が小さくなります。
原発事故の現場に接した人は決して少なくないはずです。
私の知人が、今回の原発事故での直接的な死者が2人いる。なぜそれを公表しないのか、というような記事をフェイスブックで書いていました。
元国会議員だった知人です。
もし彼が本当にその事実を知っているのだとしたら、彼こそが発言すべきです。
こういう形での批判は、何も生み出しません。
原発事故の事実は、まだ「藪の中」です。
「それを見た者」が、責任を果たしてくれることを期待します。
CIA元職員のエドワード・スノーデンさんの勇気と誠実さに敬意を表します。
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コメント
佐藤様
私もオッペンハイマーは好きな科学者の一人です。
人は自らの過ちを認め、深く反省し、それを次の行動に移すのは『本当の勇気』だと思います。
オッペンハイマーはその『本当の勇気』と『科学者としての誠実さ』を持った人物ですね。
それゆえに、時の国家政府から弾圧を受け、不遇の人生を過ごす事になってしまいました。
この事は非常に世の不条理さ・理不尽さを感じます。
浅学ですが、マンハッタン計画に関わった主要な物理学者十数名のうち、ノーベル賞を受賞していないのは、計画のリーダーであるオッペンハイマーだけだった記憶があります(記憶違いもあるので鵜呑みにはしないでください)。
アメリカ政府の圧力による、当てつけのような露骨な嫌がらせですね。
浅学に加え度々の長文失礼致しました。
投稿: 草庵 | 2013/06/28 21:52