■所有財産の共和制
アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの「コモンウェルス」をようやく読み出しましたが、彼らの思考がかなり具体的になってきているのが読み取れます。
その出発点にあるのが、次の考えです。
三大ブルジョア革命から今日にいたるまで、あらゆる共和制は所有財産の共和制である。同時に、所有財産は「貧者のマルチチュード」の存在に支えられていることを明確にしています。
本書の副題は、「〈帝国〉を超える革命論」ですが、その革命の主体はまさに所有財産の共和制(言い換えれば〈近代〉あるいは〈帝国〉)の中に潜んでいるわけです。
これは刺激的なメッセージです。
それはともかく、最近のアベノミクスにまつわる報道は、まさにこのことをわかりやすく示しています。
たとえば、企業を税制面で優遇し従業員のベアをしてもらい、給与が上がった従業員が消費を増やし、企業の売上を高めて、企業の収益が上がるという「好循環」が盛んに言われていますが、それは「所有財産の共和制」の世界の話です。
大企業の正規社員だけで社会が構成されていれば、その循環は成り立ちますが、社会の多くの人は、その循環の枠外にいます。
その昔、自動車会社のフォードは、従業員の日当を倍にし、従業員でも自動車を買えるようにし、一挙に自動車市場を拡大したといわれます。
これは、枠外にいた人を「所有財産の共和制」の「所有者」にした話です。
一方、サブプライムローンによって住宅購買者を増やしたのは、「所有財産の共和制」を維持するために枠外の人を利用しただけの話です。
アベノミクスの思想は、後者に近いでしょう。
にもかかわらず、テレビの解説は「所有財産の共和制」の内部の話を、さも社会全体の話のように報じています。
経済成長によって生活が豊かになるのは、一部の人です。
逆に経済成長によって生活を貧しくさせられる人たちがいることを忘れてはなりません。
資本主義経済の成立と発展は、近代奴隷制の存在を重要な要素にしていたとネグリは書いていますが、「所有財産の共和制」もまた経済成長の犠牲となる人たちによって支えられています。
その構造を変えなければ、世界は豊かにならないとネグリたちは考えています。
ちなみに、雇用労働こそが「所有財産の共和制」を支える仕組みです。
そして、「所有財産の共和制」には見事なほどに見えにくい「階層構造」が形成されています。
アベノミクスの報道を注意深く見ていると、その階層構造が垣間見えてくるように思います。
アベノミクス報道のおかげで、「コモンウェルス」がとても理解しやすくなりました。
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