■産業経済の基本である工場現場への不安
最近、湯島で話題になることのひとつが、日本の企業現場での基本的な技術・技能の劣化の話です。
会社を定年退職した人が、最近の化学工場や原発の事故を見ていると、高度な技術の問題ではなく、ねじの締め方とかパイプの接合とか、基本的な機器操作とか、そういうレベルでのミスが増えている。日本の工場は壊れだしているようで、心配だと嘆いていました。
やはり同世代の企業OBの人は、非正規従業員が多くなってきているので、現場のしっかりした基本動作が継承されているかどうか、とても不安だと言っていました。
福島原発では、そういうことが頻発してきていますが、どうもそれは福島原発だけのことではなく、日本の工場全体に広がっていることなのかもしれません。
だとしたら、とても恐ろしいことです。
厳しい競争の中で、高度な技術や新しい技術が必要だということもわかりますが、もっと大切なのは、ものづくりの基本動作だろうと思います。
事故調査によって、事故の原因を把握することはとても重要ですが、そうした原因の個別要素と同時に、全体の生産技術や管理技術の劣化をどうするかが、重要な課題ではないかと思います。
それはひとえに、働く人の意識の問題、モチベーションの問題であり、職場におけるコミュニケーションの問題です。
いまの企業の体制で、それがきちんとできるのかどうか、とても不安に感じます。
工場の話だけではありません。
社会そのものからも、基本的なものが失われている不安もあります。
当然のことが、当然でなくなってきているのです。
前にも書きましたが、銀行のATMで並んでいる次の人に「お先に」とか「お待たせしました」とか、言うのは、私は誰もが知っているルールだと思っていましたが、どうもそういう文化はなくなっているようです。
いつも怪訝そうな反応しかなく、気が滅入りそうになります。
レストランで食事をしたら、支払いの時に、「ごちそうさま」というのも、もう昔の話かもしれません。
商品は買ってやるのではなく、分けてもらう、つまり売ってもらうという文化も消えてしまったのかもしれません。
感謝の気持ちがなくなってきた。
お金を払えばいいという話ではありません。
家族からも地域社会からも、組織からも電車の中や街中からも、何かとても大切なものが消えてしまっています。
事故を起こしているのは、原発や化学工場だけではありません。
家庭でも、集合住宅でも、地域社会でも、最近は爆発事故が絶えません。
それをなくすためには、難しい技術や知恵はいりません。
基本動作の習得と誠実ささえあれば、会社から事故は減らせるはずです。
基本マナーと感謝の気持ちさえあれば、社会から事故を減らせます。
そう思っていますが、間違っているでしょうか。
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