■人は偶然や不思議な出会いによって変わってゆく
DVDで映画「カミハテ商店」を観ました。
「死にたい人は…、死ねばいい…」という映画解説のコピーがどうしても頭から去らなかったからです。
東尋坊で見回り活動をしている茂幸雄さんからこの映画のことを前にお聞きしていました。
監督の山本起也さんは、この映画の脚本作りに先立ち東尋坊に茂さんを訪ねています。
この映画の主人公は、自殺しようとする人を止めない生き方をしてきた人です。
茂さんとは正反対の立場なのですが、実は茂さんと深くつながっているなと、観ていて感じました。
山本さんが茂さんの話から大きな影響を受けていることはまちがいありません。
登場人物に語らせる言葉も、時に茂さんの話を思い出させます。
具体的な設定は見事に茂さんの場合の対極です。
まず主人公の千代は女性で、自死遺族です。
商店は雑貨屋さんですが、ここは自殺しようとする人が勝手に立ち寄る場所になっています。
茂さんたちが運営しているもち屋さんは、自殺を思いとどまって再出発する場所です。
茂さんは陽気で話好きですが、千代は笑いも言葉も少ない人です。
その映画を紹介しているパンフレットから、映画の紹介を引用させてもらいます。
とある日本の最果て、海に突き出た断崖絶壁がある。そこは隠れ自殺の名所。近くに一軒の古びた商店があり、初老の女がパンと牛乳を売っている。終点でバスを降りた自殺者は、なぜか店に立ち寄り、パンと牛乳を買い求める。しかし、女は決して自殺者をひきとめようとはしない。それどころか、翌朝崖に行くと女は残された靴を拾ってくるのであった。この行為の意味は、映画が始まる最初に短く暗示されています。
私が、この映画を観たくなったのは、監督の次の言葉です。
取材や調査を行えば行うほど、これこれしかじかだから自殺します、というような理由づけは遺された人を納得させるためにあるような気がしたのです。そういう映画になっていると思います。
死にたい人の気持ちは「わからない」ままでいいのだ。
むしろ生きることについての映画を作りたいと考えました。
何かをあきらめたり絶望している人間が、理屈では説明できない偶然や不思議な出会いによって変わってゆく。
そんな話を作りたかったのです。
自殺の問題だけが語られている映画ではありません。
さまざまなテーマがつながっています。
ですから観た人はさまざまな視点から自らの人生を考えさせられるでしょう。
最初から最後まで実に重い映画ですが、最後のシーンは、もしかしたら「救い」です。
登場人物みんながつながって、きっとそれぞれが変わっていくことでしょう。
死を決意したことから始まる生もあるのです。
いや、山本さんが言うように、死とは生きるための拠り所なのかもしれません。
茂さんは、「死にたい人などいない」といつも断言します。
冒頭のコピー「死にたい人は…、死ねばいい…」は、「死にたくなければ生きればいい」ということでしょう。
生きたくないのに生きてきただろう千代は、たぶん笑いを取り戻すだろうというのが、映画を見終わった私の感想です。
一人で観ると辛いかもしれないのですが、多くの人たちに観てほしいと思いました。
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