■私たちが不安に思うべきことは何か
近代の根底にあるのは「不安」だと言われています。
そうした「不安」を解消するためのエネルギーが近代化を推進してきました。
皮肉なのは、「不安」が解消されれば、近代化のダイナミズムが失われるということです。
そこで、巧みに「不安」を増殖させる仕組みが構築されました。
近代産業のジレンマに関しては、何回も書いていますが、そうした仕組みは産業に限った話ではありません。
自らの存在を守るためには、不安を解消させるだけではなく、さらなる不安を生み出さなければいけません。
そうして、イリイチが「医原病」と名付けたように、病院や医療者は病気を創り出すわけです。
そして、薬が大きな市場を形成し、経済成長が実現します。
こんな簡単な構造さえ見えなくなっているのは、これまた「不安」のおかげです。
次々と襲いかかってくる不安の罠に、みんな目先しか考えられなくなります。
しかも、不条理な統治を可能にするのもまた、「不安」です。
福島原発事故から起こった動きは、そのことを教えてくれます。
目先の雇用がなくなるから、停電で生活が不便になるから、などといった、不安の罠に囚われて、思考力を失ってしまうわけです。
不安の中で同じ被災者や被害者が溝を作って対立してしまう。
まさに「不安」が生み出す悲劇です。
これも何回も書きましたが、貨幣経済の呪縛から抜け出せば、この豊かな日本ではさまざまな生き方ができます。
もし多くの人がそれに気づけば、今の産業社会やマネー資本主義は瓦解するかもしれません。
それがまた「不安」にもなるかもしれませんが、そんな貨幣経済社会はたかだか最近100年ほどの特殊な社会でしかありません。
私たちはもっと歴史を学ばねばいけません。
この150年が、いかに特殊な時代なのかに気づけば、もっと生き方は自由になるでしょう。
しかし、そうはさせじと、不安のシャワーは強まる一方です。
今回の台風の報道を見ていて、そう感じます。
私にとって恐ろしいのは台風の雨風ではなく、台風報道による洗脳の嵐です。
もちろん台風報道だけではありません。
不安を高じさせる報道の多さには、驚くものがあります。
しかし、その一方で、しっかりと不安に思うことに関する報道はどんどん少なくなってきています。
目をそらされているのかもしれません。
岩波新書の最新刊「福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞」を読みました。
毎日新聞の記者の日野行介さんの丁寧な取材による報告です。
私たちが不安に思うべきことは何か、的確に示唆してくれています。
目先の不安に踊らされないためにも、歴史と現実には関心を払っていきたいと思います。
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