■「いろんな人がいたほうがよい」
昨日は2つの衝撃的なことがあって、時評を書く余裕がありませんでしたが、「異なっていることこそ正常」シリーズをつづけます。
その3です。
徳島駅に海部(かいふ)町(現在は市町村合併で海陽町)というところがあります。
そこは日本で自殺が最も少ない町のひとつです。
そこをフィールドワークした岡檀さんの「生き心地の良い町」(講談社)という本があります。
生き方を考える上で、とても示唆に富む本なので多くの人に読んでほしい本の一冊です。
岡さんは、とてもていねいな社会調査を踏まえて、5つの自殺予防因子を抽出しています。
それは同時に、「生き心地の良い町」を創りだすヒントでもあります。
海部町は近隣の町とはちょっと違った町のようです。
それがとても具体的に書かれていますが、たとえば、小中学校の特別支援学級の設置について、近隣地域の中では海部町だけが反対なのだそうです。
それは、「他の生徒たちとの間に多少の違いがあるからといって、その子を押し出して別枠の中に囲いこむ行為に賛成できないだけだ。世の中は多様な個性をもつ人たちでできている。ひとつのクラスの中に、いろんな個性があったほうがよいではないか」という海部町民の考え方の現れのひとつのようです。
他にも、さまざまな具体的なエピソードが紹介されていますが、岡さんはこう書いています。
海部町にまつわるこのようなエピソードに一貫してあるのは、多様性を尊重し、異質や異端なものに対する偏見が小さく、「いろんな人がいてもよい」と考えるコミユニティの特性である。岡さんは、この「いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい」が、自殺予防因子の一つに挙げています。
それだけではなく、「いろんな人がいたほうがよい」という考えを、むしろ積極的に推し進めているように見えてならない。
そして、どうしたらいろんな人が生き心地よく暮らしていけるかについても、わかりやすく語ってくれています。
最近、「多様性」ということがよく語られます。
しかし、多様性を実現させ持続させることができるかについては、あまり具体的な議論はありません。
「多様性」という流行語が、題目だけになっている場合も少なくありません。
あるいは、多様性と均質化が混同されているようなことさえあります(たとえば昨今の企業のダイバーシティ戦略)。
岡さんのしっかりしたフィールドワークからのメッセージは、とても説得力があります。
生き生きした社会には、「いろんな人がいなければならない」のです。
会社も、地域社会も、均質な人だけでは息切れがしてしまうでしょう。
今の日本社会の問題は、そこにあるような気がします。
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