■異なっていることこそ正常です
「運命の子」の著者でもある、小児外科医の松永正訓さんの講演をお聞きしました。
13トリソミーの子どもを授かった家族との交流を通して、障害児の受容や生命倫理の問題、さらには出生前診断の問題などを、ご自身の実践を踏まえた言葉でしっかりと問題提起された、素晴らしい講演でした。
2時間のお話の後、私は心身が揺さぶられたようで、しばらくうまく話せなかったほどです。
その講演の最後に、松永さんは、ドイツの大統領だったヴァイツゼッカーの言葉を引用されました。
それがこの記事のタイトルの「異なっていることこそ正常です」です。
ヴァイツゼッカーの演説はいずれも素晴らしく、演説集が日本でも翻訳されています。私もいくつか読んでいるのですが、この言葉は記憶にありませんでした。
帰宅して早速、3冊ほど読み直してみました。
しかし見つかりません。
そこで松永さんにお尋ねしたら、岩波書店からの「ヴァイツゼッカー大統領演説集」に掲載されているということでした。
手元にはなかったのですが、今日、入手して読んでみました。
1993年に行われた障害者団体の全国組織の年次大会開会式での演説の中に、この言葉が出ていました。
最初と最後に2回も。
この演説もまた素晴らしいです。
これもまたたくさんの人に読んでほしいものです。
岩波からは、ヴァイツゼッカーの演説集は数冊出版されていますが、掲載されているのは1995年出版のこの本だけのようです。
岩波書店は、この演説もきちんと掲載してほしかったです。
短い演説なのですが、はっとさせられる言葉がたくさん出てきます。
中途半端に引用すると、中途半端にしか伝わらず、誤解さえされそうですが、2つだけコメントなしで紹介させてもらいます。いずれもちょっと長いのですが。
「ある種のメディアが伝える理想的な身体になるために、彼らは不健全なダイエット、極端なスポーツ、それどころか美容整形にまでふけっております。これが障害を持つ人びとに対する不寛容を間接的に大いに助長いたします。美容整形工場で人工的で画一的な身体になろうと懸命になっている男女に取り囲まれていたいとは私は思いません。」「障害に対するわれわれの反応が、相手の個人的感情に実に大きな影響を与えるものだからです。障害を持たない人の反応に出会って、「私は自分がこれほどに障害を受けている身とは知りませんでした」と狼狽して語る人もいます。障害者の重荷を軽くするには、障害のない人びとが認識を改めねばなりません。
いずれの言葉にも、はっとさせられました。
この演説のタイトルは、その本の中では「障害者に公正に」となっていますが、ヴァイツゼッカーのメッセージは間違いなく「人間に公正に」です。
事実、そうした言葉も実際に語られています。
松永さんからこの数か月教えられてきたことは、ヒューマニズムの本質だったのです。
世界が少し広がったような気がします。
松永さんに感謝しています。
そういえば、昨日、湯島の「日本にヒューマニズム」に満ちた場を創り出すことをライフワークにしている人が訪ねてきました。
なにか応援できることがあればいいのですが。
| 固定リンク
「社会時評」カテゴリの記事
- ■言葉に管理される人間から言葉を活用する人間へ(2022.04.15)
- ■「人新生の時代」か「人消失の時代」か(2022.04.15)
- ■「これがスポーツか」(2022.02.17)
- ■コロナ感染不安症に私もかかってしまっているようです(2022.02.16)
- ■コロナ恐怖症候群の脅威(2022.01.24)
コメント