■トリクルダウンしてくる「富」の源泉の所在
アベノミクスで盛んに言われていることのひとつが、トリクルダウンです。
「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウン)」という、私には詐称としか思えない考え方です。
この、もっともらしい「理論」で、これまで多くの人たちは騙されてきました。
シャンペングラスをピラミッド状に積んで、一番上のグラスにシャンペンを注ぎ込んでいくと、それがあふれて次々と下のグラスを満たしていくというイメージのわかりやすさに、みんな騙されるわけです。
そこにはふたつの欺瞞と前提があります。
一つは、シャンペングラス・ピラミッドの場合はグラスの大きさが同じですが、現実にはそうではないということです。
上部にある大きなグラスは、実は下のグラスに比べて極めて大きいのです。
いや、底のない無限の大きさかもしれません。
もう一つは、上から注ぎ込まれる富は、どこから供給されるかです。
鳥瞰的に資本主義の歴史を捉えているエコノミストの水野和夫さんは、その著作の中で、それは外部から調達されると書いています。
まだ水野さんの著作を読まれていない方は、読みやすい新書版が何冊か出ていますので、ぜひお読みになることをお勧めします。
そして水野さんは、その外部がもうなくなりだしていると指摘します。
人工的な外部も創られてきていますが、それも限界にきていると。
アメリカは、自由貿易主義などという装いを凝らしながら、日本市場に外部を求め、日米構造協議やTPPなどを推進してきています。
その被害をきちんと立証してくれる経済学者がいればいいのですが、残念ながらいません。
それによって、日本の富は流出していますので、日本にはマイナスですが、調達成果を得ているアメリカにとっても限界はあります。
外部から富を調達できない場合、どうなるでしょうか。
これまでも何回か書いてきていますが、内部から調達せざるを得ません。
どこから調達するか。
基本は、相手に気づかれないように、「薄く広く」です。
富を収奪された低所得者たちにトリクルダウンしてくる富のバランスは、間違いなくマイナスです。
そして、経済的な格差社会が進んでいきます。
この30年の日本の経済がそれを証明しているように思います。
ところが、多くの人は、今はまだアベノミクスの効果は大企業だけに現れてきているが、次第に中小企業や生活者にその恩恵が回ってくると主張しています。
だからアベノミクスをとめてはいけないと信じて、多くの人が自公民に投票したのでしょう。
知識や思考のない人、歴史や現実をしっかり見ない人の愚かさは悲しくもありますが、知っていながら詐称する人たちにも哀れさを感じます。
今なお、トリクルダウンしてくる富を期待している人が多いのにも情けなさを感じます。
たしかに、高度成長期にはトリクルダウン効果がありましたが、それは富を外部から調達していたからです。
いまは、上納した富の一部が返還されてくるだけなのです。
以上の議論は、私の独断的な意見です。
しかし、サプライサイド経済学や新自由主義の主張から生まれてきたトリクルダウン理論は、実証されたものではないと言われています。
私だけのゆがんだ考えとも言い切れません。
いずれにしろ、そろそろ富を外部から調達する文化からは抜け出たいものです。
そして、「おこぼれ」に期待するような生き方は捨てたいと思います。
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