■疑念4:TPPへの危惧-もう一つの戦争
安保法制を整備し、日米軍事同盟を強化しないと他者からの攻撃を受ける恐れが高まっていると考えている必要が私のまわりにも少なくありません。
その場合、「他者」はかなり具体的な「他国」のイメージがあるようです。
一方、そうしたことが、たとえばイスラム過激派の攻撃を誘発するという意見も少なくありません。
アフガニスタンや中東で活動している人たちはそう感じているようです。
軍事的・暴力的攻撃に関しても、このように正反対の意見があります。
「戦争」が新しい局面に変質(対立構造が国家間から組織間に変質)してきていることも考慮に入れながら、総合的に考えなければいけません。
しかし、私たちの生活が攻撃されているという意味では、まったく違う局面での「もう一つの戦争」が進んでいるように思います。
私にはその問題の方が、もっと大きな「私たちの生活の安全保障問題」ではないかと思うのです。
それは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題です。
昨年亡くなられた宇沢弘文さんは、TPPは万物を私有化し利潤追求の対象にしようとする市場原理主義の現れであり、各国がその固有の歴史の中で構築してきた社会的共通資本を破壊すると言っていました。
宇沢さんがいう、「社会的共通資本」とは、人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的制度のことです。
たとえば、日本の国民皆保険制度と組み合わさった医療制度や自然と調和した農業の営み、里山などの自然環境です。
あるいは、経世済民のための商慣行や無尽講のような相互扶助の経済の仕組みも、そこに含めてもいいかもしれません。
それらは「誰かのもの」というよりも、「みんなのもの」と言っていいでしょう。
最近の新自由主義的経済は、すべてのものの市場化(金銭化)を目指して「暴走」しています。
そうした「汎市場化」の動きに違和感を持ったことが、27年前に私が会社を辞めた理由の一つです。
少なくともそれには加担したくなかったからです。
当時は、環境や福祉の分野がこれからの成長産業だなどと言われていた時代です。
そうしたことへの異論は、当時私も話をしたり書いたりしていましたが、流れは加速されるだけでした。
最近も、その種のことを話させてもらうこともありますが、相手にはまったくと言っていいほど、その意味が伝わらなくなってきています。
フロンティアが不可欠な資本は、あらゆるものを「市場化」し、あらゆるものが金銭利益追求の対象になってきていますが、人間さえもがいまやその「部品」あるいは「商品」へと化しているのかもしれません。
TPPの報道では、関税が話題にされますが、関税はその「氷山の一角」でしかありません。
世界が単一の市場になってしまえば、地域固有の文化である「社会的共通資本」は失われていくでしょう。
それは、とりもなおさず、私たちの生活が壊れていくということです。
TPPを主導しているのは、いまやアメリカを掌中にするほど巨大化してきた資本だろうと思います。
その資本が目指すのは、徹底した自由化と市場競争化を目指した、新しいルールです。
しかも、そのルールを運営する主体は、悪評のISD条項に示されているように、国家というよりも、投資家です。
国家主権から投資家主権への変化だという人さえいますが、私もそう思います。
そのTPPに日本は参加しました。
郵政民営化の悪夢が、また繰り返されることになりかねません。
問題は「経済」ではなく「文化」です。
「金融ビッグバン」が、日本の社会をどう劣化させたかを思い出すと恐ろしくなります。
つまり、日本はいま、資本による侵略を受けているとも言えるでしょう。
私には、「もう一つの戦争」のように思えてなりません。
軍事力のやりとりで見える戦争だけではないのです。
そして、その「戦争」では、ほぼ「敗戦」は見えてきました。
70年前のように、大本営発表にだまされているような気がしてなりません。
近隣諸国との関係や平和のための「安保法制」に目を奪われているうちに、日本はすっかり「他者」に侵略されてしまうかもしれません。
いやもうかなりの部分が、壊されてしまったような気もします。
「無意識のアメリカヘの自発的従属」という、「戦後レジーム」の完成が、「戦後レジームからの脱却」を掲げている安倍政権によって成し遂げられようとしているのは、実に皮肉な話です。
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