■措置入院への不安
その後の相模原障害者施設事件の報道に接していて、世間は何も変わっていない、と思います。
自らの生き方を問い質した人は、どれほどいるでしょうか。
自分は今回の加害者とは別だとみんな思っているのでしょうか。
自らもまた、「障害者」だという認識を持った人はどれほどいるでしょうか。
相変わらず、「障害者」は特殊な存在だという報道ばかりです。
とてもさびしい気がします。
さらに不安を感じるのは、措置入院が問題になってきたところです。
問題が違った方向を向いているのではないのか。
私が、その対象になったらと思うと、恐ろしくなります。
この事件は、いまの社会の本質を示唆しているように思えてなりません。
加害者の考えは、許されないとか、異常だとか、みんなそう語ります。
もちろん私もそう思います。
しかし、だからといって、彼はいまの時代風潮と無縁なのか。
彼は、本当に、私とは別の世界の特殊な存在なのか。
そして、許されないと語っている人の中には、人を差別する意識はないのか。
いまの時代風潮をよく見れば、同じような風景はいたるところにみられます。
ヘイトスピーチは、そのわかりやすい例ですが、それだけではありません。
学校にも企業にも、程度の差こそあれ、それにつながる発想や言動はないのか。
私は、彼のような行動を支えている、時代の風潮を感じます。
それは、個人の尊厳をおろそかにする風潮です。
正規社員と非正規社員の構造の中にも、それを感じます。
出産前診断に見られるような、優生学的な発想の動きも少なくありません。
強いものが勝っていく競争を是とする社会そのものの中にも、今回の加害者の言動につながるものを感じます。
自分は加害者の言動と全く無縁だと断言できる人が、どのくらいいるでしょうか。
時代が、彼のような存在を生み出してしまったのではないか。
そんな気がしてならないのです。
障害を持っている人が、加害者に怒りを持つことは、当然です。
私も怒りを持ちますし、怒りをぶつけたい。
しかし、それで怒りを解消したくはありません。
もっと怒りを向けるべき相手があるのではないか。
障害者を障害者として扱う社会にこそ、怒りを持つべきではないのか。
彼に怒りをぶつけるのではなく、彼を生み出した社会に対して怒りをぶつけていかなければ、事態は変わらない。
私が、世間は何も変わっていないと思うのは、そうした報道ばかりが流れていることです。
みんな他人事としてしか語らない。
加害者を非難する前に、まずは自らの生き方を問い質すことが大事なような気がします。
私としては、自分の中にある差別意識にしっかりと対峙する機会にさせてもらいました。
前に書いたことがありますが、精神病院の脱施設化を実現したイタリアの話を思い出します。
どうやら日本は、それとは真逆の方向に向かっているようです。
障害者施設もまた、私は脱施設化を目指すべきだと思いますが、それが実現するには、多くの人たちが、障害者などという発想を捨てて、多様な人たちと、人として付き合う余裕を持つようにしなければならないでしょう。
すぐにはそれは難しいでしょうが、せめてそれを目指す生き方をしたいものです。
今回の事件ほどひどくはないとしても、同じような事件は決して少なくないでしょう。
私たちは、そうしたことへの関心をもっと高めていきたいものです。
もしかしたら、自分も加害者的な言動をしていないかの反省も含めてです。
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