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2017/11/18

■「政府が進める「地域共生社会」ビジョンは、監視国家へ変貌する危険性を孕んでいる」

「高齢期社会保障改革を読み解く」(社会保障政策研究会編 自治体研究社)を読みました。

先日、湯島のサロンで、福祉環境は改善されている一方で、社会保障政策の劣化を感ずるという発言をしたら、福祉の現場の真っただ中にいる参加者にたしなめられました。
現場から見ると、福祉環境も福祉行政も大きく改善されているというのです。
たしかにそういわれると反論はできません。
でもどこかに違和感を強く持っています。
そういう状況の中で読んだせいか、とても共感できるメッセージの多い本でした。

本書は、安倍政権の社会保障政策を高齢者に焦点を当ててその本質を読み解くとともに、高齢期に発生する生活問題を整理したうえで、それを変えていくためには市民による改革が必要だと主張しています。
私にはとても共感できる内容です。
念のために言えば、福祉行政も大きく改善されているという現場の人の意見に異論はないのです。
どちらが正しいという問題ではなく、たぶんどちらも正しいと思います。
その上で、しかし、多面的な視点を持たないと現実や未来は見えてこないのではないかと思うのです。
私たちは、二者択一の○×で判断しがちですが、いずれも○の異論が両立することはよくあることです。
その意味で、本書はできるだけ現場の人に読んでほしい本です。
「現場の人」という言葉には、すべての高齢者も含めています。

数名の執筆者が高齢期社会保障の問題をさまざまな具体的な切り口から論じ出ていますが、本書の基本姿勢は第1章の「高齢期社会保障に潜む課題と地域共生社会の本質」(芝田英昭)で示されています。
たとえば、こんな風に現在の政策は厳しく批判されています。

安倍政権の下では復古主義的・保守主義的政策が一気呵成に実施されているが、社会保障分野においても、家族主義、コミュニティヘの依存を強める自助・自立・相互扶助を基本とした社会保障切り捨て政策が全面的に打ち出されている。 例えば、厚生労働省に置かれた「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」(2016年7月設置)が、社会保障切り捨ての先導役を務めていると言える。 しかし、実現本部は、「地域共生社会」の名の下に、地域に生起するあらゆる課題・問題を地域住民が自助・共助を基本に解決していくとしているが、この方向性は、生存権を公的責任のもと具現化した社会保障制度の基盤を揺るがす重大な誤謬を犯しかねない。

「地域共生社会」という、私も目指したビジョンさえもが、「社会保障を崩壊させ、監視国家へ変貌する危険性を孕んでいる」と見事なまでの指摘です。
私自身、「『我が事・丸ごと』地域共生社会」のビジョンを聞いた時には、共感を持ちながらも、政府がそんなことを言い出すことに違和感を持っていました。
本書を読んで、その違和感が理解できました。
芝田さんは、「国家が監視しているだけでは、国民を完全には統制できないことから、一段進んだ形態として、「住民相互の監視システムと密告」装置を構築させようとしている。それが、まさしく「現代版隣組制度」としての「地域共生社会」ではなかろうか」と書いていますが、それほどの厳しい目が必要なのだと気づかせてもらいました。
違和感は放置していてはいけないのです。

もう一つ共感したのは、「健康長寿社会の形成に資する新たな産業活動の創出及び活性化、(中略)それを通じた我が国経済の成長を図る」こととし、「健康・医療」分野を、経済成長の道具と位置づけている。人間の生命・生活の根幹をなす分野を産業化することは、商品としての健康・医療分野を購入できる者とできない者との格差を拡大させ、国民の健康破壊を推し進めることにしかならないし、健康・医療における人権思想・倫理観が欠如しかねないといわざるを得ない」という指摘です。
そしてこの問題は、第5章の「高齢者福祉「改革」と市場化・産業化」(曽我千春)へと引き継がれます。
ここでの主張は私がずっと前から思っていたことで、20年ほど前に雑誌などでも書いたこともあります。
http://cws.c.ooco.jp/siniaronnbunn1.htm
私が一番危惧しているのは、「汎市場化」の流れです。
介護保険制度は介護の社会化と言いながら、介護を市場化してしまいました。
それによって、介護環境は「改善」されたかもしれませんが、失われたものも大きいように思います。
この章は、我が意を得たりと思いながら読みました。

本書の最後は、「市民による改革の必要性」(本田宏)です。
実は本書は、執筆者のおひとりでもある本田さんにいただいたのですが、医師だった本田さんは医師を辞めてまで、社会をよくしようという活動に取り組んでいます。
本田さんは、「いま高齢期の社会保障を直撃する「社会保障費抑制と市場化・産業化」の流れを止めるためには、市民による改革が不可欠である」と書いています。
本章は読んでいて、本田さんの熱い思いが伝わってきます。
お時間がない人は、この本田さんの怒りの章だけでもぜひ読んでほしいです。
そして2020年のオリンピックなどには騙されないようにしてほしいです。
私はオリンピックに出場する選手に対してさえも、不快感を持っているほど、オリンピックは嫌いです。
この文章は、蛇足でしたね。
不快な気持ちにさせたらお許しください。
すみません。

それはともかく、本書はいろんなことを考えさせられる本です。
細かな制度論や技術論的なところも多いですが、多くの人に読んでほしい本です。
そして、本田さんのアジテーションに乗って、市民による改革にぜひ加わってほしいです。

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