■なんのために稼ぐのか
思うことあって、久しぶりにソローの「森の生活」を、時間の合間に少しずつ読み直しています。
最初に読んだのはもうかなり前ですが、その時はあんまり共感を覚えませんでした。
世間の評価が高かったためかもしれません。
その頃の私は、世間の評価が高い作品にはどこかで反発がありました。
今回もあまり共感を得られないまま読んでいますが、面白い気付きはあります。
たとえば、こんな記事が最初のほうに出てきます。
比較的自由なこの国においてさえ、たいていの人間は単なる無知と誤解のために、しないでもよい苦労やよけいな、取るに足りない生活の仕事に追いまくられて、その素晴らしい人生の果実を手にすることができない。
まるでいまの日本、そして私自身ことのような気がしますが、これは19世紀中ごろのアメリカです。
もっとハッとさせられるのは、次の文章です。
前に読んだ時にはまったく心に残らなかったのですが。
南部の奴隷主のもとで働くことはつらいことであるが、北部の奴隷主のもとで働くほうがさらによくない。しかし、最も悪いことは自らが奴隷の使用人となることだ。
この本が出版された10年後にアメリカでは南部に展開されていた黒人奴隷制度が廃止されます。
そして、いわば新しい北部型奴隷制がスタートしたとも言えるかもしれません。
「アメリカのデモクラシー」を書いたトクヴィルも、表現と意図はまったく違いますが、同じ事実を語っています。
その時々の状況によって、同じ本から得られる共感は違ってきます。
今朝読んだところも面白かったです。
一部の人間が物質的環境において未開人よりましな状態に置かれてきたことに正比例して、他の文明人が物質的の中には未開人以下に堕落していった人間がいるということは明らかであろう。
そしてソローはこう書いています。
ある人が私にこんなことを言っている。「どうしてお金を蓄(た)めないのかね。旅行がお好きだから、汽車に乗れば今日でもフィッチバーグ(コンコードの西にある町)に行って、その地方が見物できるでしょうに」。しかし私は賢いから汽車になど乗らない。私がすでに知っていたことは、最も迅速な旅行者というものは歩いて行く人だということだ。
そして具体的にその理由を書いています。
興味を持たれた方は、書店か図書館で、講談社学術文庫「森の生活」の77~78頁をお読みください。
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