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2018/12/07

■カフェサロン「大家族主義経営を考える―個人と組織の関係」報告

久し振りの企業経営をテーマにしたサロンは、今回は徳島にある西精工株式会社の事例をベースにして、個人と組織の関係を考えるサロンでした。
西精工は、「ホワイト企業大賞」や「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」などを受賞し、「人間尊重型経営」で成果を上げていると話題になっている会社です。
最近、西精工の経営を紹介した「人間性尊重型大家族主義経営」(内外出版社)を編集した上本洋子さん(自在株式会社)に、同社の紹介をしてもらいました。
西精工の現場にも行ったことがある内外出版社の関根さんも参加してくれました。
最初に先ず、上本さんから西精工の紹介をしてもらいました。

社長の西さんは、東京の広告代理店で働いていましたが、会社の後継者候補だった従兄弟が病気で急逝したため、急遽、会社を継ぐことになり、徳島に戻りました。
入社してわかったことは、業績はいいものの職場風土にいろんな問題があることでした。
どうにかしなければと思っている矢先、西さんご自身が腎臓病になってしまい、1年間の闘病生活を余儀なくされてしまいます。
病気回復後、会社の中の気の流れを変えたいと決意し、掃除や挨拶からの風土改革を始めたものの、なかなか思うようにはいきません。
そしてさまざまなドラマが始まっていくのですが、これはぜひ本を読んでください。

同書には前半で、西精工と重ねながら最近話題の「ティール組織」のことが紹介されています。上本さんは、そのエッセンスも話してくれました。
「ティール組織」は話題になっているわりにはその実体がなかなかわかりにくい「組織モデル」ですが、個人と組織の関係を考える上では大きな視点を提起しているように思います。

上本さんのお話の後、話し合いが始まりました。
最初に私から、西精工の会社現場の雰囲気を質問しました。
本やテレビで描かれている話と実際の現場とは大違いの会社が少なくないことをこれまで何回も経験しているからです。
たとえば西精工では、毎朝1時間の朝礼が行なわれていますが、その雰囲気はどうなのか。
朝礼にも参加したことのある関根さんから即座に答えが返ってきました。
社員の表情が輝いていて、みんな楽しそうに話し合っていたというのです。
工場の雰囲気もとてもいいそうです。
本の記述と実態は違っていないことを、私は確信しました。
社員の顔は嘘をつかないからです。

本にも書かれていますが、会社を死に場所にしたいと言っていた社員の話に、そんな会社があるのだと驚いた人が一人ならずいました。
会社が、その人にとって、自分の生きがいを満たしてくれている場になっているということでしょう。
しかし、その一方で、そんなに会社べったりでいいのだろうかという違和感を持った人もいたかもしれません。
それではかつての「会社人間」と同じではないか、と。
そこで、「家族」ということの意味が話題になりました。

本のタイトルは「大家族主義経営」ですが、西精工社内では「家族主義」という言葉はあまりつかわれていないようです。
ここで「大家族主義」という言葉に込めた意味は、社員のことは家族の一員のように、最後までしっかりと面倒を見るとともに、仕事の上での上下関係を人間としての上下関係にせずにお互いに支え合う関係を大事にしようということではないかと思います。
「家族」という言葉には、拘束的な面や他者を排除するような面もないわけではありませんが、西精工にはそうしたことはないようです。
たとえば工場周辺の掃除にしても、ただ工場周りだけではなく、まちなかにまで掃除を広げているようですが、そこに象徴されるように、家族ファーストではないのです。
西さんの祖母の言葉が、とても示唆に富んでいます。
「社員さんが250人おったら、×(かける)4せなあかんのよ」。

西さんは、経営とはみんなの幸せを追及することだと考えています。
宮沢賢治の「世界ぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない」を思い出します。
それは、同社の行動指針にも明確に表現されています。
そこで大切にされているのは、「つながり」とか「コミュニティ」です。
決して閉じられた「家族主義発想」ではないのです。

西さんは、主体者は社員で、社長はサポートする人だと言っているそうです。
そこには人を信頼して任せる、各人の常識に委ねる。
ここにも従来の家父長型の家族主義発想はありません。

西さんは、子どもの頃から本に囲まれて、たくさんの物語になじんで育ったそうです。
そのためか、自分を主役に物語を語ることになれている。
そして、社員と一緒に物語を語りながら、社員とコミュニケーションを深めていくようです。
物語を語ることは大切です。
社員一人ひとりが主役になる組織、まさに「ティール組織」が目指されています。

ティール組織に関する議論もいろいろとありました。
ティール組織の議論は、社会の状況に合わせて組織の構成原理も変わっていくという話ですが、いまの日本の社会や人間は変わってきているのだろうかという話もありました。
上本さんは、朝の通勤時の電車の様子を見ると人間の質も上がっているのではないかと言いました。

西精工のような、人間の生活をつなげる「人間尊重型」の経営は、どこでも実現できるのか。
参加者からは、地域社会の特性と無縁でないのではないのかという意見が出ました。
東京と地方の会社に関わっていて、そう実感されているようです。
上本さんも、四国という土地柄が関係しているかもしれないと言います。
まさにティール組織論が言うように、社会の状況が組織のありようを決めていく。
同時にまた、組織のありようが社会のありようを決めていくのかもしれません。
だからこそ、会社のありようは社会的にも大切なのです。

企業は社長の経営観や価値観で変わってくる。
しかし、会社を変えていくには、社長一人ではなく、何人かのコアになる人が必要だという意見も、実際に企業変革に関わっている人から出されました。
西さんの経営観は、どこで培われたのか、もしかしたら1年間の入院生活が何らかの影響を与えているのではないか、という話も出ました。
人は世界の広さによって、経営観も変わってきます。
大病経験が西さんの経営観を豊かにしたのかもしれません。
障害を持つ社員がいるおかげで、経営に関する考え方も広くなったという参加者の発言もありました。

まだまだいろんな話が出ましたが、長くなりすぎたので、これでやめます。
上本さんが、時々ポツンとつぶやいた言葉が私にいろんなことを考えさせてくれました。
経営者からの話も示唆に富むことが多いですが、編集者から企業のことを聞くことの意味がよくわかりました。

いつもながら、私の関心に合わせて報告させてもらいました。
個人と組織(会社には限りません)をテーマにしたサロンは、来年も続けます。

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