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2019/02/12

■「認知症になってもだいじょうぶ!」(藤田和子)をお勧めします

2年ほど前に出版された本なのですが、やはり多くの人に読んでほしいと思い、改めて紹介させてもらうことにしました。
書名に「認知症」とありますが、それにこだわらずに、さまざまな人に読んでほしい。
読むときっと世界が広がり、生きやすくなる、そう思ったからです。
もちろん認知症に関わっている人には、たくさんの学びがあることは言うまでもありませんが。

本書は、看護師であり、認知症の義母を介護し看取った経験もある藤田和子さんが、45歳でアルツハイマー病と診断されてからの10年間の自らの経験をベースに、「認知症になってもだいじょうぶな社会」をつくっていこうと呼びかけた本です。
最初読んだときは、「認知症」という文字に呪縛されてしまい気づかなかったのですが、今回改めて読ませてもらったら、本書は社会のあり方や私たちの生き方へのメッセージの書だと気づきました。
藤田さんは本書の中で、「人権問題としての『認知症問題』」と書いています。
ここで語られているのは、認知症になっても大丈夫な生き方だけではなく、たとえ認知症になっても快適に暮らせるような社会を実現するための私たち一人ひとりの生き方です。
認知症とは無縁だと思っている人もふくめて、多くの人に読んでほしい本です。

私は20年ほど前から、「誰もが気持ちよく暮らせる社会」を目指す「コムケア活動」に、個人としてささやかに取り組んでいます。
そこで一番大事にしているのは、「個人の尊厳の尊重」ということです。
「ケア」も、「一方的な行為」ではなく「双方向に働き合う関係」と捉えてきました。
最近では、マニュアル的な押し付けケアではなく、当事者個人の思いを起点にした生活全体に視野を広げた地域(生活)包括ケアという発想が広がりだしていますが、それはまさに「誰もが気持ちよく暮らせる社会」につながっていくと思っています。
誰もが気持ちよく、という意味は、障害を意識しないですむようなという意味です。
もちろん「認知症」や「高齢化」も、障害にはならない社会です。

テレビなどで、2025年には「高齢者の5人に1人が認知症」などという顧客創造情報が盛んに流れていますが、そうしたことには私は全く関心がありません。
しかし、コムケア活動の流れの中で、「みんなの認知症予防ゲーム」を通して、社会に笑顔を広げていこうというプロジェクトには参加させてもらっています。
その集まりで、私はいつも、私自身は認知症予防よりも認知症になっても気持ちよく暮らせていける社会のほうを目指したい、そして自分でもそうなるように生きていると発言しています。
藤田さんのいう「認知症になってもだいじょうぶな社会」をつくるのは、たぶん私たち一人ひとりです。
そう思って、自分でできることに取り組んでいますが、本書を読んで、とても元気づけられました。

藤田さんは、盛んに書いています。
「一人の人として関わり続けてくれる人がたくさんいれば、孤立することはありません」
「私には、アルツハイマー病になってもこれまでどおり関わってくれる友人が何人かいます。ありがたいなあと思っています。私のことを一人の人として見てくれていると実感しています」
「より多くの人と出会い、多くの頼れる人とつながっていると、人生を豊かにする可能性が広がっていくと思うのです」
大切なのは、いろんな人との支え合うつながりを育てていくということです。
藤田さんは、そういう人たちを「パートナー」と呼んでいるようです。

藤田さんが呼びかけていることはもう一つあります。
自分らしく生きること、そのためにはしっかりと社会に関わっていくこと。
パターン化された「認知症になってからの人生ルート」などに従ってはいけない。
もし、「認知症の人への偏見が自分らしく生きることを妨げている」のであれば、他人任せにするのではなく、そうした偏見のあやまちを身を持って示していく。
そのためにも、自分らしい生き方を大事にすることが大切だと藤田さんは言います。
そして、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と主張しなければいけない。
心から共感します。
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」とみんなが言い出せば、社会はきっと豊かになっていきます。

本書で語られている藤田さんのメッセージには、ハッとさせられることが多かったのですが、とりわけ次の言葉はハッとさせられました。

「私自身、アルツハイマー病だった義母を9年間介護してきて、その大変さは身に染みて体験しています。けれども今はアルツハイマー病の患者本人としての立場で、介護者だったときにはわからなかった『本人の世界』をわかってもらいたいと思います」

これは、ケア活動で、ついつい陥りやすい落とし穴です。
当事者でなければわからないことがある。
相手のためと思っていることが、相手を押さえつけることにならないように注意しなければいけません。

本書は、藤田さんの素直な生活感覚が語られているので、とても読みやすい。
人の生き方として共感できることも多いです。
藤田さんが「幸せ」なのは、ご自分を誠実に生きているからでしょう。

藤田さんは、認知症に関する世間の偏見をなくしていきたいとも言っています。
ちょっと長いですが、引用させてもらいます。

「認知症への偏見を持ったままでは本人も周囲の人も、そして、社会全体が不幸せになるのだと思います。正しい理解を広めることができるのは、認知症の人、一人一人なのではと思います。ですから、自分の体験を世間に伝えることで、「これから認知症になる人々が早い段階で自分自身を理解し、自分の周りにいる人々とともにより良く生活できる工夫の必要性を考えることができるようになると思います」

「正しい理解を広めることができるのは、認知症の人、一人一人」、心に響きます。

藤田さんは、「本書が、アルツハイマー病とともに生きている私から、これから認知症になるかもしれない皆さんとそのパートナーになる方々へのヒントになるとうれしい」と書いていますが、本書にはたくさんのヒントがあります。
ぜひ多くの人たちに本書を読んでいただきたいです。
たくさんのことに気づかせてくれる本です。

この本を紹介してくれた島村さんに感謝します。

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