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2019/02/03

■移民と移住

昨日と今日とで、録画していたテレビ番組ETV特集「移住50年目の乗船名簿」をまとめて観ました。
この番組のディレクターの山浦さんから、昨年、この番組にこだわっている相田洋さんの話と南米取材で訪問した弓場農場の話を聞いていたので、とても関心を持っていました。
相田さんは、1968年の最初の同行取材以来、10年ごとに移住者の取材を重ねてきたそうです。
今回のシリーズ作品は、その集大成でもあります。

番組は楽しみにして、今年初めに放映された予告編も見ていたのですが、どうもしっかりと観る覚悟ができませんでした。
特に最近は心身がどうもしっかりしていなかったので、先延ばししてきたのです。
覚悟がいると思っていたのは、移民に対する私のイメージがあまり良いものではなかったからです。
一時期、「棄民」という言葉が流行しましたが、私にも海外への集団移住には「棄民」というイメージが深く重なってしまっていました。
南米移民された方に直接お会いしたことは、私にも一度だけありますが、その体験も、私のなかでは「棄民」イメージが定着してしまっていたのです。

私が「移住者」にお会いしたのは、1980年代初めのサンパウロでした。
3週間ほど南米を旅行した時に、成功した移民2世の方のご自宅でのパーティに参加させてもらったのです。
今回の番組にも出てきましたが、牛一頭が丸焼きにされて供されるような豪勢なパーティでした。
移住者の方と直接ゆっくりと話し合う機会はありませんでした。

その翌日、今度は全く別の場所で、同行者の知り合いの、ちょっと苦労した移住者の家族の方をお見かけしました。
同行者のところに訪ねてきたのですが、私は軽くあいさつを交わさせてもらっただけでした。
その方はお聞きした年齢とは思えぬ感じで、いかに苦労してきたのかが想像できました。

大豪邸の成功者と苦労を重ねた方は、立場も見た目もまったく対照的でしたが、私にはいずれにも、なんとなくの「哀しさ」を感じました。
その頃から「移民」という言葉がどうにも馴染めませんでした。
そういうこともあったので、この番組を見るのは気が重かったのです。

4本続けて番組を見ました。
気が抜けるほど、素直に観ることができました。
覚悟など必要なかったのです。
そこにあるのは、どこにでもあるだろう、山あり谷ありの多様な人生でした。
念のために言えば、面白くなかったということではありません。
まったく逆です。
50年にわたって、一人のディレクターが人(個人の生活)に焦点を当てて取材を続けていることのすごさを感じたのです。
最近の「いかにも」というドキュメントとは全く違っています。
50年にわたり、それぞれの人生にしっかりと関わってきている相田さんの目線が、極めて日常的なのです。
それぞれには、言葉にできないようなさまざまな物語があったでしょうが、50年を超える長さの中で、おかしなドラマ仕立てではなく、生きることを冷静に考える示唆の詰まった大きな物語になっているのです。
人生は、苦もあれば楽もある。
そのことが実に素直に伝わってくるのです。
人生とはどこにいてもこんなものなのだと、奇妙に納得できたのが、私の感想です。

私の「移民」観は一変しました。
「移民」と「移住」との違いにも気づかされました。
外から見たら「移民」かもしれませんが、当事者は「移住」だというような、当然のことにさえ気づかなかった。
制度的な移民であっても、そこにいるのは「移民者」ではなく「移住者」です。
私はこれまで、あまりに「移民」という視点で考えすぎていたために、どうも考え違いしていたような気がします。
これは何も、移民だけの話ではありません。
たぶん多くの問題において、「移民的発想」で私は歴史を捉えていたのかもしれません。

そんなことを気づかせてくれた番組でした。
もちろんそれ以外にも、私たちの生き方を考えるうえで、たくさんのヒントやメッセージのある番組でした。
ちなみに、第4回で採りあげられている弓場農場の話はいずれまたドキュメント番組になるでしょう。
もし放映されることになったら、ぜひ皆さん、観てください。
まだまだ未来にも人間にも可能性があると思えるようになりました。

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