■湯島サロン「万葉集の多様性ー古代和歌の魅力」報告
升田さん(昭和女子大学名誉教授)をガイド役にして、継続的に開催していく講座的なサロンです。
今回は最初なので、総論的に、いろいろと面白い話が予告的に提出されました。
まず、万葉集の成り立ちや構成、時代背景の解説、そして、実際の万葉集の表記(万葉仮名)の説明がありました。
万葉集の成り立ちに関しても、文字を知らない人たちの歌を編纂チームのメンバーがどうやって集めたのか、どうやって選択したのかなど、いろいろと質問したくなるような話もたくさん出ました。
まだまだ読み解けていないところもあるという話も面白かったです。
古写本の表記スタイルもからコピーで見せてもらいました。
後半では、額田王の歌とされている「熟田津に 舟乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」の歌を事例に、歴史とのつながりを紹介してくれ、万葉集の世界を少し垣間見せてくれました。
話の骨子だけでもきちんと記録を取っておけばよかったと反省しましたが、記録をとる習慣がない私には話の概要を紹介するのは無理なので、いつものように私が刺激を受けたところを報告をさせてもらいます。
万葉集の魅力は多様性にある、と升田さんは(たぶん)話されました。
今回お話を聞いて、その多様性を私はやっと理解できました。
そしてその多様性こそが、時代の大きな変わり目の象徴だと気づかされました。
その多様性が次第に整理されていく過程も万葉集から見えてくるのかもしれません。
いうまでもありませんが、「文字」こそは「多様性」を統合していく最大の手段です。
文字にする前には、声にだし、みんなで歌いあって、歌が生まれてきた。
それぞれの声が生命のリズムにのって、それぞれの心の揺れが重なっていく。
そうしたなかで、個人の覚醒が起こるとともに、心のつながり(集団)が生まれてくる。
「ホロン」という概念(個でもあり全体でもある)がありますが、歌によって個人の覚醒が起こり、歌によってその個人がつながっていった。
さらに、それが「文字」にされることで、個人の多様性が編集され、国家体制を生み出していく。
いささか飛躍的ですが、文字や歌の効用に関して、気づかされることが多かったです。
文字や言葉は、「つなぐ」ためのメディアですが、人と人だけではなく、自然や「天意」と「人」をつなぐものでもあります。
アメリカの心理学者ジュリアン・ジェインズは、人間の意識は今から約3000年前に生成し、それ以前の人間は、意識の代わりに二分心(右脳と左脳)を持つことにより、社会生活を成り立たせていたと提唱しています。
古代人の心は、神々の声を出していた部分と、現代で言う意識している心とに分かれていた。
古代ギリシアの『イーリアス』(有名なトロイ戦争が書かれています)は、そうした二分心時代の人間を描写した代表的な文献だというのです。
そう思って、『イーリアス』を読むととても納得できますが、もしかしたら万葉集にもそうした名残があるのかもしれません。
万葉集の歌には、「天の声」が含まれているかもしれません。
そして同時に、ジェインズが言うように、「言葉」の誕生の形跡がみられるのかもしれません。
サロンの報告を超えた話になってきてしまいましたが、こういう壮大な話をついつい思い出してしまうほどの、たくさんの示唆をもらったサロンでした。
もう一つ付け加えれば、例に取り上げられた、額田王の「熟田津に…」の歌ですが、それに関して、升田さんは(たしか)「女性は言葉の力が強い」といったような気がします。
そして、現代の社会は左脳重視の論理社会なのでどんどん窮屈になってしまっている、精神の自由を広げていくためにも、歌の効用に注目しようというメッセージをくれたような気がします。
「女性は言葉の力が強い」という点に関しては、私は異論がありますが、AI(人工知能)が社会を覆いだしている現在、改めて万葉集を読み直す意味に、私は初めて気づきました。
参加者の発言にもいろいろな気付きをもらえましたが、ひとつだけ紹介します。
平田さんは、「万葉集は新しい日本語(やまとことば)の練習帳ではないか」という仮説を提出されましたが、なるほどと思いました。
なんだか「万葉集」とも、またサロン当日の話とも、違う内容の報告になったような気もしますが、お許しください。
ちなみに、連続サロンとしての万葉集サロンの第1回目は、5月18日(土曜日)の午後を予定しています。
内容が決まり次第、ご案内します。
以後、隔月、原則として第3土曜日の午後に開催していきます。
継続参加されたい方はご連絡ください。
ゲストの名前も今回すでに出ていましたが、参加者(希望者)が自主発表することもできればやっていきたいです。
ちょっと大学のゼミ気分を味わうのもいいかもしれません。
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