■湯島サロン「スマート・テロワールを考える:非市場経済は可能か」報告
山口県で循環する地域づくり研究所を主宰している東孝次さんの「スマート・テロワールを考える」サロンは、15人の参加がありました。
副題の「非市場経済は可能か」に関心を持った人も少なくありませんでした。
時代の変化を感じます。
「スマート・テロワール」とは、一言で言えば、「自立した地域共同体」のことです。
経済的には畑作農業と食品加工業を中心に農村を元気にし、日本全体を元気にしていこうという構想です。
ベースにあるのは重商主義から重農主義への発想転換です。
提唱者は、カルビーの社長だった松尾雅彦さん。
市場経済の真っただ中にいた企業家が、農村問題に対する解決策を提案し、その具体化に向けての取り組みを先頭に立って進めている。しかも非市場経済の必要性を主張している。
東さんはそこに興味を持ったそうですが、私もそこに大きな意味を感じていました。
しかし残念ながら、日本の経済界の人たちの反応はあまりありませんでした。
農業政策や地方自治政策にも大きな影響を与えているとは思えません。
時代の流れを変えることのむずかしさを改めて感じます。
東さんは最初に、スマート・テロワール構想について紹介してくれました。
簡単にいえば、「耕畜連携」、「農工一体」、「地消地産」という3つの連携体制で農産業を再構築し、圏内で消費者と生産者(農家と加工業者)が循環システムを構築するという発想です。
「耕畜連携」とは、耕種農家と畜産農家との手間の交換(互酬)で、これによって安全な飼料の提供と土壌の改善を進めることができます。
「農工一体」とは、耕種農家と加工業者とが契約栽培を行うことで、お互いに支え合う安定した関係を育てていこうということです。
「地消地産」とは、地域で消費するものはできる限り地域で生産しようということですが、地元の人たちが消費者として生産者を支えていこうということでもあります。
こう説明すると、単に農業政策や産業政策の話に思われるかもしれませんが、その根底にあるのは、産業や経済の捉え方、さらには社会の構造を根本から変えていこうということです。
たとえば、相互に支え合う互酬の考えを取り入れることで、金銭に呪縛された経済から解放され、人と人の生き生きしたつながりが育ちます。
また、「地産地消」ではなく「地消地産」としているのは、産業(経済)起点で経済を考えるのではなく、生活起点で経済を考えようということです。
生活視点で考えると、「自給」ということの視野は食にとどまることなく、エネルギーや福祉の問題にまで広がっていきます。
つまり、私たちの生き方や社会のあり方を見直すことになっていきます。
最近広がりだしているFEC共同体(フードのF、エネルギーのE、ケアのC)構想にもつながります。
松尾さんは、それによって、なかなか改善されない「少子化問題」も解決すると考えています。
契約栽培も農家と加工業者の関係にとどまりません。
「地消地産」という言葉に示されるように、生活者と生産者の契約も重要になっていきます。
そこでの契約は「市場契約」とは違った、個人が見える人と人のつながりを生み出します。
強い者が勝ち続ける経済(市場経済)ではなく、住民みんなが居心地のいい社会なっていくというわけです。
すでに「スマート・テロワール」への実際の取り組みは各地で広がりだしています。
山形や長野、山口などでの展開事例も紹介してくれました。
話し合いでは、いつものように話題はさらに広がりました。
「自立した地域共同体」の規模の話や「自給」と「自閉」との関係。
都会部と農村部での出生率の違いの話や生活のための「仕事」の話。
地域通貨の話や食への不安から微生物の話。
定額で利用し放題の一括契約のマーケティング手法と契約栽培の違い。
いろいろありすぎて、思い出せません。
東さんは「循環する地域づくり研究所」を主宰しています。
最近、持続可能性ということが盛んに言われていますが、直線モデルの工業経済は、どこかに限界があり、そもそも持続可能ではありません。
持続可能なためには、循環型でなければいけませんから、東さんが提唱している「循環する地域づくり」と「スマート・テロワール」構想は親和性が高いと思います。
私自身は、「スマート・テロワール構想」は、まだ金銭経済や市場経済の呪縛から十分には解放されていないような気がしますが、だからこそ、理念としても、実践活動としても、たくさんの示唆があるように思います。
余っている水田を畑に変えていこうという具体策の提案など、共感できるものもたくさんあります。
ちなみに、サロンの翌日、一般社団法人スマート・テロワール協会の総会が開催されました。
これまで以上に、実践に向かっての活動が広がっていきそうです。
ぜひこれからの展開に注目しておきたいと思います。
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