■湯島サロン「農福連携から始まる農村イノベーション」報告
熊本で福祉と農業を基軸にして長年活動している宮田さんには、時々、湯島でサロンをしてもらっていますが、今回は、「農福連携から始まる農村イノベーション」をテーマに、最近の動きを話してもらいました。
宮田さんは最初に、宮沢賢治の「農民芸術概論綱要」に書かれている「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉から話し出しました。
そして、いまの社会はそうなっているのかの問いかけがあり、たとえば「食料品アクセス困難人口の増加」や「グローバリゼーション」、あるいは「障害者問題」などから、「人間疎外」の深まりが、そうした状況に向かうのを妨げていると示唆されました。
そして、そうした状況を打破する動きとして、農福連携に大きな期待を持っていること、その動きがひろく展開され出していることを、たくさんの事例で紹介してくれ、そこから社会の新しい枠組みの展望を語ってくれました。
とてもわかりやすく、まとまったお話でした。
宮田さんは長年、行政とも関わりながら、農福連携を推進してきている先駆的な実践者のおひとりですが、その体験から、問題は農業関係者と福祉関係者の出会いの場をどうつくっていくかだったと言います。
宮田さんの長年の苦労の一つはそうした場づくりだったと思いますが、ここにきてそうした場がさまざまな形で生まれてきた。そして、いま農福連携の第2ステップに入ったと言います。
障害者福祉施設が自分達で農業経営をしたり、農家・農業法人が自ら地域の障害者を雇用したり、さらには企業や社会福祉法人が農業分野で障害者の働く場を創出したり、さまざまな形で農福連携が生まれだしているのです。
宮田さんは4つのタイプに整理して、具体的な事例を紹介してくれました。
いずれの事例も、新しい可能性を示唆するものであり、こうした動きをもっと多くの人たちに知ってほしいと改めて思いました。
さらに、今年、農山漁村振興交付金の中に、「農福連携人材育成支援事業」という補助金項目が追加され、農業と福祉の中を取り持つ仕組みと人材育成のための『農業版ジョブコーチ』制度が始まりました。
宮田さんもこのプロジェクトに実際に取り組んでいくことになっています。
宮田さんはさらに「農福連携が求められるようになった理由」を国民国家の枠組みという大きなビジョンのなかで整理してくれました。
社会はよく「国家」「市場」「市民社会」の3つのセクターで語られますが、宮田さんはそれを踏まえて、社会的活動の担い手「セクター」が変化しだしているというのです。
そしてその新しい主役の位置づけが国家や市場を超えていくイメージを図示してくれました。
宮田さんは、実践者であると同時に研究者です。
こうした「現象を客観化する科学性」を大事にする宮田さんの論考はいつも示唆に富んでいて、俯瞰的な視野を与えてくれます。
宮田さんの話の大筋を紹介しましたが、途中で語られた具体的な話の中にこそ、宮田さんの思いが含まれているような気がします。
そのなかから、一つだけ、私が一番印象的だった話を紹介させてもらいます。
それは高知県のナス農家でアルバイトをしている若い女性の話です。
職業適性検査で、「どこも採用する企業はないかもしれない」といわれた女性が、農福連携に取り組んでいる農家で今は楽しく働いているという話です。
詳しいことを知りたい方はご連絡いただければ新聞記事を送らせてもらいますが、そういう話は多分かつてはよくあったことではないかと思います。
つまり農福連携は、昔は日常的にあったことかもしれません。
そう思うといまの時代の根底に「人間疎外」があるという最初の宮田さんの言葉がとても腑に落ちます。
最後に宮田さんは、自らも関わっているスリランカの子どもたちの写真を見せてくれました。
子どもたちの表情はみんなとても輝いている。
福祉というと何やら難しいことを考えがちですが、私は要するにみんなの表情が輝いていることだろうと思います。
日本の最近の子どもたちはどうでしょうか。そして大人たちは。
宮田さんは『マタイによる福音書』の言葉で話を締めました。
「神の国の扉は、ただ、ぼんやりと待っているだけでは開かれません。(中略)主体性をもって努力する者にのみ運命は開かれているのです」。
宮沢賢治に始まり、マタイで終わる。
とても考えさせられる話でした。
話し合いもいろいろと広がり、予定を1時間も超えました。
宮田さんの話はとても共感できることが多く示唆ももらいましたが、私にはいくつか異論もありました。
そのため中途半端なコメントをしてしまい、話し合いを混乱させてしまいました。
その後の宮田さんの話を聞いて、疑問の多くは解消されましたが、一度また、宮田さんの実践やビジョンを掘り下げるサロンをしたくなりました。
私の異論は、経済政策や福祉政策として農業と福祉をつなげるという発想、あるいは社会活動セクターの捉え方に関してです。
もちろん、農福連携に異論があるわけではないのですが、せっかくの新しい視点が経済視点で「市場化」されていく最近の風潮への危惧の念を払しょくできないでいます。
私の異論はそこから発しています。
農業も福祉も、いずれも人間疎外に抗う存在であるとともに、時に人間疎外を引き起こしかねない存在でもある。
そのことに改めて気づいたサロンでした。
今回は農業に取り組んでいる人も数名参加してくださいました。
その人たちにもぜひこの「農福連携」サロンのつづきをやってもらえたらと願っています。
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