■湯島サロン「分け合う経済試論 〜資本主義の次の世界への可能性」報告
平田英二さん(やとじぃ/練馬区文化財保護推進員)の「分け合う経済試論」のサロンは猛暑にもかかわらず、14人の参加がありました。
いつもより時間を1時間延ばし、平田さんが作成してきてくれたテキストをベースに2時間近く、じっくりと平田さんのお話を聴かせてもらいました。
平田さんは最初に今回サロンで話すことになった背景を話してくれました。
「カネ、カネ、カネ…の世の中、やだなあ」と感じていた平田さんは、昨年、湯島でやった霜里農場の金子友子さんのサロンで、有機野菜を売るのではなく、あげちゃうことにしたらうまく回りだしたという友子さんの話を聴いて、目が開かされたといいます。
その後、平田さんは4回も入院をするのですが、その間、改めていろいろと本を読んだり考えたりしているうちに、「分け合う経済」ビジョンが形になってきたようです。
念のために言えば、平田さんは現場と実践の人ですので、書籍だけから組み立てられた仮設ではありません。
現場調査もしながら、自分の生きかたとつなげて考えてきたビジョンです。
話は、「アイヌの鮭交易」の話から始まりました。
それは、収穫した鮭を加工して、ある場所(チシャという一種の神域)に放置し、それを欲しい人が引き取っていくというようなスタイルです。
神域に放置することで、鮭は神のものになり、それを必要な人が活かしていくということで、個人の所有権の移転とはちがうのです。
神のもの(みんなのもの)を分け合って活かしていくという仕組みで、平田さんの提唱する「分け合う経済」のエッセンスが凝縮されているように思います。
そこから平田さんはアイヌ文化の成り立ちに話を転じ、北アメリカ先住民のポトラッチまで話を進めます。
アイヌの話は、社会のありように大きな示唆を与えてくれる内容でした。
そして、資本主義経済は「棚田経済」だと言って、水田稲作という装置産業が生み出した権力と格差の話に入っていきます。
その話をたっぷりしてくれた後、では格差を生まない経済取引はあるのかと問題を設定し、いくつかのモデルを紹介します。
その一つが、「分かち合う経済」ですが、それはそれですぐれた解決戦略だと思うと言いながら、やはり平田さんは納得しないようです。
視点が違うのです。
そして出てきたのが「分け合う経済」なのです。
平田さんはこう言います。
心情的な語感をもつ「分かち合い」よりも、物々交換や沈黙交易に対置できるような、フラットで動的な言葉として、「分け合う経済」を選んだ。
「分け合う経済」は必然的に仲がよい関係を作り出す、と平田さんは言います。
人間同士だけではなく、自然とも仲良くして、自然から分けてもらった恵みを分け合う。
自然の一部として生きる者どうしが自然の恵みを分け合う、ということです。
そして、狩猟採集民こそ、まさにそう生きてきたと平田さんは言います。
平田さんは、アイヌも含めて狩猟採集民が農耕と無縁だったなどとは思っていません。
その生き方というか社会のありようを言っているのです。
そういう時代に分け合って生きている人たちがどういう集落をつくり、どういう文化や死生観をもっていたかを、縄文環状集落モデルで説明してくれました。
これも示唆に富む話でした。
とまあ、そういう話をしてくれた後、平田さんは格差と戦争原理をなくす分け合う経済が持っている可能性を語ってくれました。
分け合うのであれば、できたものをできたなりで分け合えばよい。
コストパフォーマンスどころか、コストという概念さえない。
B級品や規格外というロスが生じることもない。
お返しもまた分け合いだから、必ずしも、もらったものに見あったものである必要はない。分け合える何かをお返しすればよい.
価格という制約がなくなれば、むしろ、物そのものの価値をまっさらな状態で受け止めることができるのではないか?
少なくとも生活に関わる領域を「分け合い経済」に変えていき、人びとと分け合い、自然と分け合えば、自然を過剰にいじめることなく、おのずと持続可能性の高い社会を維持することができるのではないか?
「各人ができることを分け合って働き(そこにいること自体ひとつの働き)、得られたものは平等に分け合う」ことによって、格差も小さくなる.
そこに「働かざるもの食うべからず」の思想はない。
「分け合う経済」は、戦争という人類最大最悪の不幸を避ける道にもなる。
いかがでしょうか。
そして最後に結論としての平田さんとしての行動宣言です。
「そういうことで、私はまず「あげること」からはじめることにしました」。
そういって、今回のサロンの資料をカラープリントで参加者全員に配布してくれました。
一冊の本にもなりそうな内容の濃い資料です。
話し合いも、賛否あって、いずれも示唆に富むものでした。
魅力的な議論も多かったですし、私の意見も書きたいのですが、長くなりすぎるので今回はやめます。
できたら参加された方がフォローしていただけるとうれしいです。
参加された方は、いろんな示唆を受け取ったと思われますが、平田さんが最後に自己宣言したように、いまの社会がもし生きづらいのであれば、まずは自らの行動を変えることから始めるのがいいと改めて思いました。
このシリーズのサロンは引き続き継続します。
話したい人がいたらご連絡ください。
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