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2019/11/21

■CWSサロン「日本国憲法の制定経過」報告

弁護士の秦悟志さんに、日本国憲法の制定経過をお話しいただくサロンは平日の夜でしたが、9人が参加。
半分近くは若い世代の男女でした。
私はそれだけでもお願いしてよかったと思いました。

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サロンにも書きましたが、「押しつけ憲法」論が横行しがちですが、現行憲法の制定経過をもっときちんと把握する必要があるというのが秦さんの思いです。
秦さんは10頁にわたる詳細な年表を作成してきてくれて、それに沿ってていねいに日本国憲法の制定経過を説明してくれました。
それも単なる年表ではなく、そこに関連情報が的確に整理されて要約されています。
当時の日本の政府関係者や学者、あるいはオピニオンリーダーや国民の意識状況や情報環境もかなりしっかりと読みとれる年表です。
この年表をきちんと読めば、憲法が押し付けられたなどとはそう簡単には言えなくなるでしょう。

資料の最後に、現行憲法の99条(憲法尊重擁護義務)とその自民党憲法改正草案の102条の条文が紹介されていました。
ここに私は秦さんの思いが込められているように感じました。

秦さんのお話を要約することはできませんが、私は2つのことを改めて知りました。

ひとつは、鈴木安蔵さんたち憲法研究会の憲法草案要綱が194512月に日本政府とGHQにしっかりと届けられていたことです。
憲法研究会の憲法草案要綱はとても共感できることが多く、それがまさかGHQに正式に届いていたとは知りませんでした。

もう一つは、日本国憲法が国会によって可決され、公布された後、マッカーサーから吉田首相宛に、日本人民が憲法改正を必要と考えるならば、憲法施行後の初年度と2年度の間に国民投票の実施が必要だろうと伝えていたということです。
しかし当時の政治家からは憲法改正の声は上がらず、憲法再検討問題は立ち消えになったそうです。

こうした事情を踏まえて考えれば、「誰が」「誰に」押し付けたのかも違ったように見えてきます。

話し合いもいろいろと行われましたが、それをまとめるのは難しいので、
一点だけ私が特に重要だと思うことを書かせてもらいます。

これは話し合いも行われたのですが、憲法はだれに向けたものなのか、平たく言えば、憲法は誰を規制するルールなのか、という問題です。
私たちの世代は、憲法は権力者(政府)を規制するものであると教えられてきました。
ですから湯島のサロンでも、そういう思いで憲法を語る人が少なくありません。

しかし、もしそうであれば、憲法で規定するべき義務は統治者の義務であるべきですが、日本国憲法には、就業の義務、教育の義務という国民の義務も明記されています。
この矛盾を説明するために、たとえば就業や教育の義務は「法的義務」ではなく「道徳的義務」だというようなおかしな説明が行われてきています。

憲法には、ほかに「納税の義務」と「憲法尊重擁護義務」(99条)という2つの義務規定がありますが、この2つは「法的義務」だとされています。
同じ法律の中に意味が違う同じ言葉があることは、少しでも法律を学んだ人ならおかしいと思うはずですが(それでは法治主義が成り立ちません)、日本の憲法学者や法律学者はそう思っていないようです。
そこに日本の法学および法学者の本質が象徴されているように思います。

日本国憲法には、統治者(政府)あてのものと、被治者(国民)あてのものが混在しているのです。
決して政府だけを規制しているわけではありません。
そして、そこにこそ、日本国憲法がGHQ主導でつくられた制定過程と無縁ではない問題があると思います。
現行憲法の制定過程をしっかりと学ぶことで、現行憲法の問題が見えてくるのです。

秦さんは最後に、大切なのは「立法事実」だと言いました。
立法事実とは、その法律の必要性を支えている事実です。
押し付けられたかどうかよりも、そうした立法事実や法の目的こそが大切です。
そうした点をおろそかにしてしまうと、今度は政府からの押しつけ憲法ができてしまいかねません。
秦さんが最後に2つの条文を紹介したことに、私はそうしたメッセージを感じました。

憲法は私たちの日常生活とは遠い存在と思いがちですが、決して遠い話ではありません。
多くの人に、憲法を読んでほしいと思います。
私たちの生活を支えているのは、憲法なのですから。

 

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