■湯島サロン「人はどうして仕事をするのだろうか アーレントからのヒント」報告
「人はどうして仕事をするのだろうか」という問いを、社会との関係において考えてみようという林さんのサロンは、新型ウイルス騒ぎの影響もあって、参加者は9人でした。
林裕也さんはデザイナーですが、最初にこれまでの仕事のことを、取り組みだした経緯も含めて紹介してくれました。
林さんは一人で活動していますが、4つのタイプの仕事にわけてくれました。
取り組みだした順番にそって整理すると、「クライアントワーク(ライスワーク)」「ボランティアワーク」「アートワーク」「まちづくり活動」です。
そして、林さんにとっての、それぞれの意味合いや活動内容も話してくれました。
そうした林さんの取り組みのなかに、「人はどうして仕事をするのだろうか」を考えるヒントがたくさん含まれていました。
クライアントワーク(ライスワーク)は、字義通り「ご飯を食べるための活動」です。
多くの人は学校を卒業すると、ごく自然に、家族から自立することを意識して「仕事」を始めます。
その対価は、多くの場合、金銭的な報酬です。
林さんにとっては、それは「やらなければならない仕事」だったといいます。
しかし、人によっては、それだけでは満足できずに、あるきっかけで「ボランティアワーク」に取り組みだします。
林さんの場合は、東日本大震災でした。
社会的な使命感もあったのでしょうが、林さんは、単純に「やりたかった」ので、ここでも自然に取り組んだそうです。
その体験がもしかしたら、林さんに自分ができることを目覚めさせたのかもしれません。
そして、取り組みだしたのが、アートワーク。
そして、つづいて「まちづくり活動」へと広がってきているようです。
林さんの活動がこういう形で、広がってきた理由の一つに、人との付き合いの広がりがあるようです。
クライアントワークの場合は、付き合いの範囲も限定されがちですが、ボランティアワークやアートワーク、まちづくりワークの場合、いろんな人との出会いが起こります。
そこでこれまでとは違った「働き方」が始まってきているのかもしれません。
といっても、その「働き(仕事)」は同じではありません。
ボランティアワークは対価など発生せず、むしろ出費が発生します。
そこで、林さんは「仕事」とは何だろうという課題にぶつかったのかもしれません。
そして、「人はどうして仕事をするのだろうか」という問いかけになったわけです。
そんな時に出合ったのがハンナ・アーレント。
ハンナ・アーレントは、全体主義を生みだす大衆社会の分析で知られる思想家です。
彼女は、人間の活動的生活を労働、仕事、活動の3つに分けています。
この3つの違いは、なかなかわかりにくいのですが、おおざっぱに言えば、「労働」とは生命維持のための活動、「仕事」とは価値あるものを創り出す活動、「活動」とは他者に働きかける活動です。
林さんはその視点で、自分の仕事の意味を考えると、いずれにも3つの要素があると言います。
しかし、その3つの視点を持つことで、仕事に対する捉え方が変わってきたそうです。「人はどうして仕事をするのか、という問いの答はまだ明確ではないそうですが、「人間として生きていきたい」という思いから「仕事」を考えていくようになったそうです。
人間として生きていくための活動(仕事)のあり方は具体的にはどういうことなのか。
果たしていま多くの人は「人間」としての仕事をしているのだろうか。
そうはいっても、対価のない仕事だけでは生きていけない社会ではないか。
しかしその一方で、対価をもらう仕事はストレスも多くて、大変だ。
そんな話し合いが、行われました。
人の生き方や仕事の多様性の問題などもちょっと話題になりましたが、十分には掘り下げられませんでした。
このテーマは、もう一度、それぞれの仕事観を持ち寄っての話し合いをぜひともしたいと思っています。
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