■コロナ危機を活かす〔5〕改めて「自由か安全か」
2回も寄り道してしまいましたが、2つ目の帰路、「自由か安全か」に戻ります。
あなたは「自由」と「安全」のどちらを重視して生きているでしょうか。
「自由」と「安全」は、次元の違う話だから比べられないと思うかもしれません。
しかし、そんな発想こそを捨てなければいけないと私は思っています。
そもそも、厳密にいえば、対置できる概念などありません。
平和と戦争も対置されがちですが、次元が違います。戦争でないから平和というわけでもなく、平和でないから戦争というわけでもありません。
でも「戦争か平和か」と問われれば、多分多くの人は「平和」を選ぶでしょう。
同じように、「自由か安全か」と問われれば、感覚的に答えられるはずです。
そして現代の日本では、多くの人は、「自由」よりも「安全」を選ぶようです。しかも、自らの「安全」のために他者の「自由」を抑制することさえ正当化してしまっている。
話題になった先日放映されたEテレの「緊急対談 パンデミックが変える世界」でも、ジャック・アタリが、安全か自由かという選択肢があれば、人は必ず自由ではなく安全を選びますと話していました。
アタリが、そんなことを言うのかとがっかりしますが、「自由のために死を辞さない」時代は終わってしまいました。
20世紀後半になって、「安全」は私たちにとって日常の事柄になってきました。
それに伴い、「死」はだんだん、生活から見えなくなってしまいました。
毎日、どれほどの人が死んでいるか、ほとんどの人は意識できなくなりました。
日本では自殺者だけでも毎日100人以上はいるでしょうが(統計上は少し低くなっていますが)、ほとんどの人は何も感じていないでしょう。
そんな時に、新型コロナウイルス感染症の蔓延。棺桶の並ぶ映像とともに、今日は何人死んだという報道が毎日なされるようになりました。
数字だけなら他人ごとにしておけましたが、テレビなどで親しく感じている人の突然の訃報は衝撃を与えました。
そして急に「安全」指向が高まってしまった。
もし「自由」が「安全」を損なうのであれば、たとえ他者の自由も抑制すべきだ!
人々の行動原理は「自由」から「安全」へと変わってしまった。
人の自由を抑制するには、権力や罰則、強い政府が必要です。
それによって、強い秩序が維持されて、安全な社会が実現するかもしれません。
ウルリッヒ・ベックの提唱した「リスク社会」時代とも深くつながっています。
かつては「安全」は個人の課題でしたが、今や「安全」は社会全体の課題になってしまった。個人の手には負えないリスクの発生です。
つまり、安全と自由が共立しにくくなってしまったのです。
だから、自由よりも安全は、時代の大きな流れとしてもはや変えられないと多くに人は思っています。
個人の自由が社会の安全を壊し、回りまわって個人の自由を奪ってしまう。
自由の時代から安全の時代への移行です。
しかし、それでいいのだろうか。
各自の自由こそが社会の多様性を豊かにし、社会の安定を高めるのではないかと私は思います。
種の多様性こそが淘汰を生き抜く生命の効果的な戦略です。
人間社会もその例外ではないでしょう。
ポストコロナに関しては、自由な文化は消えてしまうのではないかという見方が多いようですが、むしろ安全志向の流れを反転させる契機にしていきたいと思います。
本当の「安全」は、自由の空気の上にこそあると思うからです。
だから私は、今日も吹き荒れている、パチンコ屋さんいじめには恐怖を感じます。
次はだれが狙い撃ちされるのでしょうか。
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