■「21世紀の平和憲法」(川本兼 三一書房 2300円)のご紹介
今年の憲法記念日は、新型コロナの陰に隠れがちでしたが、こうした時期であればこそ、ぜひ多くの人に読んでいただきたい本を紹介させてもらいます。
コロナ危機への対処の仕方も、変わってくるかもしれません。
湯島のサロンの常連の一人、川本兼さんは、長年、平和や人権の問題に取り組んできていますが、改めて「平和」に関するこれまでの論考を整理した「21世紀の平和憲法」を三一書房から今月出版しました。
かなり粘度の高い論考ですが、川本さんの独自の視点と時間をかけて取り組んできた地道な活動の成果のおかげで、読み終えると、なにか動き出したくなる、実践的なメッセージがこもった1冊です。
巻末に川本さんの日本国憲法改正私案も掲載されています。
川本さんは、戦後日本国民の「戦争そのもの」「戦争ができる国家」を否定する「感覚」を高く評価しています。しかし、それがアメリカからの「押しつけ憲法」の憲法9条とつながったことで、日本人は平和が実現したと「錯覚」してしまい、その「感覚」を普遍的な理念(思想)にしてこなかったことを問題にします。
そしてこのままだと、その平和の感覚も風化し、日本の平和運動は次世代にも世界にも広がっていかない。したがって、戦争体験を通じて獲得した日本国民の戦後の「感覚」に「ロゴス」としての「言葉」を与えてそれを思想にし、さらにそれを世界に発することが急務だと言います。
そして、そうしたことに向けて、行動を起こそうというのが、本書のメッセージです。
本書の帯には、「次世代、他国の人々にも受け継いでもらえる運動を構築するために」と書かれています。
川本さんは、日本国民の戦後の「感覚」が求めたその平和は、「変革を要求する新しい価値」だったといいます。つまり、戦争放棄だけでは平和は実現しないのです。
そのために、川本さんは、「戦争そのもの」を否定する新しい論理、「戦争ができる国家」を否定する新しい論理を、平和主義、革命、基本的人権、社会契約という切り口から、次々と展開していきます。
そして、そうした論考を踏まえて、最後に日本の現状を変えていくために、新しい平和憲法と新しい運動の主体について、具体的に提言しています。
類書とはかなり切り口が違いますので、新しい気づきも多いはずです。
話が多岐にわたるので、簡単には内容紹介できませんが、特に最後の「21世紀の平和憲法」を多くの人に読んでほしいと思います。できれば、川本さんの憲法改正私案もお目通しいただきたいです。
川本さんの憲法改正私案は、いささか挑発的です。
現憲法は第1章「天皇」から始まりますが、川本私案の第1章は「人および国民の権利及び義務」で、人権原理から始まります。これは近代憲法のスタイルです。
問題は、現憲法の第2章「戦争の放棄」にあたる第3章が、「自衛軍と国際協力」となっていて、自衛軍(自衛隊ではありません)の保持が謳われていることです、
「平和憲法」なのに自衛軍を認めるのかと思う人もいるでしょうが、その意図を読めば、たぶん納得する人は多いでしょう。そこに込められた川本さんの仕掛けには、私は若干の異論を持ちながらも、共感し納得しました。
いずれにしろ、いろんなことを考えさせられる本です。
コロナ騒ぎが少し落ち着いたら、川本さんの改正私案を材料にしながら、日本国憲法を話し合うサロンをぜひとも開催したいと思います。
本の案内チラシを添付しました。
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