■磯野真穂さんの「医療者が語る答えなき世界」をお薦めします
ぜひお薦めしたい本に出合いました。
磯野真穂さんの「医療者が語る答えなき世界」(ちくま新書)です。
先日、新型コロナに関連した朝日新聞のインタビューで、磯野さんが「人と人が直接会って交流できないことは、社会の死を意味する」と話されていたことに誘い込まれて、磯野さんのこの新書を読んでみました。感激しました。読み終えたのは先月ですが、多くの人に読んでほしいと思い、紹介させてもらうことにしました。
朝日新聞の記事では、磯野さんは「医療人類学者」と肩書きされていました。医療人類学という言葉も私は初めて知ったのですが、本書を読んでとても納得できました。
そして、私たちの生活のすぐ近くに、「文化人類学」のフィールドがたくさんあることに気づきました。社会は豊かさに満ち溢れているのです。
同時に、私たちにも「文化人類学者」的な生き方ができる事にも気づかされました。磯野さんは、「文化人類学は他者の生を通じて自分を知る学問」だと書いています。そう捉えれば、私もささやかに「文化人類学」的な生き方をしているように思います。
それはともかく、磯野さんは、こう書いているのです。
身体の異常を元通りに治すとか、心身の不調をすっかり取り去るとか、字句通りの「治す」からはいっけん離れたところにある医療行為が現場にはたくさんあり、それらの行為こそがまさしく医療なのではないかと思わせる場面が存在する。
そして、「「治す、治さない」という二項対立的な基準を持ち込まずに医療者の仕事をとらえる方法はないだろうか」と問い、「医療者の仕事は医学を医療に変換すること」だというのです。
現在の医療に違和感を持っていた私には、とても腑に落ちる言い方です。
磯野さんは、そうしたことをわかりやすい8つの医療者の物語を通して、ていねいに説明してくれます。「8つの物語が、読者のこれまでの人生と何らかの形で共鳴することを願ってこの本を書いた」と磯野さんは書いていますが、私の場合、たくさんの共鳴がありました。共鳴だけではなく、感動もあり、納得もあり、気づきもありました。
紹介したいこともたくさんあるのですが、生半可な紹介よりも、ぜひ本書を読んでほしいので、内容の紹介はやめておきます。
読み終えた後、磯野さんがインタビューで「人と人が直接会って交流できないことは、社会の死を意味する」と言っていたことの思いが、さらに深く伝わってきました。
新型コロナ対策で、社会が死なないように、ぜひ多くの人に読んでいただき、自分の生き方を考える時間を持ってもらえればと思います。
気楽に読める新書です。
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