■湯島サロン「ローカル線廃止問題から見える地方の現状と将来」報告
「乗り鉄」の溝端さんの「ローカル線廃止問題から見える地方の現状と将来」のサロンには15人の参加者がありました。
ローカル線ファンが多いのに驚きました。
溝端さんは全国のローカル線を乗り歩く旅が好きだそうですが、その体験も踏まえて、ローカル線の実情やそこに込められた問題をていねいに話してくれました。
最初にローカル線廃止の背景として、「沿線人口減少に伴う利用者の減少」と「最近の大規模自然災害による被害からの復旧の難しさ」を挙げ、北海道や九州の具体的な状況を話してくれました。
そして、どうしてこうなってきたのかを、経済や地域開発スタイルの変化で説明したうえで、なぜ廃止が問題なのかをバス転換の難しさにも言及しながら話してくれました。また、ローカル線維持のための解決策の一つとして、上下分離方式(軌道事業と運行事業を分ける考え)を採用した京都丹後鉄道の事例を紹介してくれました。
最後に、そうしたローカル線の現状と課題から見えてくる日本の地方の問題や人口減少問題について問題提起してくれました。
そこには、たくさんの問題が含意されています。
ただ、都市住民の人たちで語ってしまうと、どうしても都市住民の発想の議論になってしまい、ローカル線沿線で生活している人たちはどう考えているのだろうかと、いつも気になります。そもそも「ローカル線」というネーミングも私には違和感があります。
鉄道問題に限りませんが、日本で地方の問題が語られる場合、「都市」や「国家」からの視点で語られることがほとんどで、私はそこにいつも大きな違和感をもっています。
サロンでも話が出ましたが、鉄道は、生活のためという視点よりも、経済開発の視点で広がってきました。鉄道が日本の高度経済成長に果たした役割は極めて大きいものがあります。
象徴的に言えば、地方から大量な労働力を集めるために鉄道が日本全国にはりめぐらされたと言ってもいいでしょう。鉄道を通して多くの安い労働力が都市や工業地帯に集められたことが、日本の経済成長の最大の理由でした。
しかし、いまや地方から呼び集める労働力はもう国内の地方には多くはありません。
日本で鉄道が最初に敷設されたのは、鉱山からの鉱石の搬出用でしたが、鉱石を掘りつくせばその鉄道は廃線になる。同じように、地方に余剰労働力がなくなれば、廃線になるのは当然です。鉄道輸送だけで採算が取れるはずはありません。
そろそろ「経済のために鉄道」というとらえ方を見直す必要があるでしょう。
鉄道を社会のインフラとして捉え、経済的な採算基準を変えなければいけないのではないかという議論もありました。たしかに新自由主義経済の下で民営化された日本やアメリカと違い、軌道も運行も公営を守っているフランスでは、今も鉄道交通網はしっかりと維持されています。
「生活のための交通インフラ」という発想に立てば、おそらく現在の問題の立て方とは全く違ってくるでしょう。しかし、残念ながら大きな流れは「観光のための鉄道」にと相変わらず「経済発想」に向いています。せめてその「観光」が「地域を輝かす」という意味での観光であればいいのですが、お金を落とす消費者(観光客)を呼び込もうという発想が多すぎて、私には悲しい思いがします。
そもそもローカル線がなくなって、その地域の住民たちは移動に関して本当に困るのか。
私見ではあまり困らないような気がします。むしろ、高齢化の中で、生活のための交通システムこそが問題なのではないか。
私も15年ほど前に新潟市のある地域で住民たちが自分たちでバスの運行会社を立ち上げようというプロジェクトにかかわったことがあります。コンパクトシティの話も出ましたが、生活視点で考えると問題は全く違ってくるような気がします。
「生活のための交通システム」という視点からは鉄道は重装備すぎて、たぶんこれからもますます廃線が増えると思います。
せっかくのレール施設を活かすという発想は大切だと思いますが、その場合は思い切り発想を変える必要がありそうです。
ローカル線廃止から見える「人口減少問題」も話題になりました。
私自身は人口が減少することがなぜ問題なのかわかりませんし、それ以上にそれを埋めるために海外から労働力を呼び込むなどという、まさに身勝手な経済成長路線には反対ですが、なぜかほとんどの人がそうした「経済成長発想」で考えているようです。
そもそも「過疎」とか「限界集落」とかいう概念がなじめません。
経済成長や市場づくりにとっては、人口減少は問題かもしれませんが、生活から言えば、大切なのは人口にあった生活のあり方であり、人口の年齢構成だろうと思います。
他にも、流域生活圏発想のような沿線生活文化圏の話題も少し出ました。
鉄道運賃の話や定住人口と関係人口の話、さらには日本が世界の引っ越したい国ランキング2位の話も出ました。
鉄道を話題にすると話はどんどん広がるようです。
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