■湯島サロン「関係から考える」報告
「社会構成主義」をテーマにした坪田さんの講義型サロンには15人の人が参加しました。「関係」という言葉に、みんな関心を持ったようで、それも現代という時代を象徴しています。
坪田さんは予告通り、アメリカの社会心理学者のケネス・ガーゲンの2冊の本をベースに、「社会構成主義とは何か」をていねいに解説してくれました。
坪田さんが最初に強調したのは、社会構成主義とは強烈な近代哲学への批判哲学なのだということです。
社会構成主義は、デカルトの「我思う、ゆえに我あり」という個人の独立を起点にした考え方を否定し、関係の中にこそ自分はいると考えるのです。
つづいて、坪田さんは、ガーゲンの整理に沿って、社会構成主義の4つのテーゼを解説し、続いて、「個人主義的な自己」と「関係としての自己」を説明し、最後にガーゲン特有の表現である「境界画定的存在」「関係規定的存在」「変幻自在的存在」という人間観を紹介してくれました。
そこから私たちの生き方や社会の捉え方などの自由な話し合いがはじまりました。
様々な立場の方が参加されていたので、話題は広がり深まりました。まあちょっと外れすぎたこともありましたが。
私たちは、他者から切り離された個別的な存在なのか、あるいは他者との関係によって規定されている存在なのか、さらには多様な他者との多様な関係の中に浸ることで、自らもまた多様に変化する存在なのか。
そしてそうした捉え方はまた、私たちの生き方や社会をどう見るかにもつながっていく。
自分があって他者があると考えるのか、他者との関係において自分を考えるのかによって、「コミュニケーション」の意味は全く変わってきます。
そこから、対話の話題にもなりました。当然ながら「対話」の意味はデカルトとガーゲンでは全く違ったものになるはずです。サロンの話し合いも、デカルト型かガーゲン型かで聴いていると新しい気づきが得られます。
まあ話の基本はこういう流れだったような気がしますが、ミャンマー事件を例にして対話ができない相手とはどうしたらいいかとか、結局は仏教の「色即是空 空即是色」につながるのではないかとか、関係を壊し個人を分断するのが資本主義ではないかとか、さらには自殺の問題にまで、まさに変幻自在的的に話は広がりました。
ちなみに、社会構成主義は日本人にはとてもなじみやすいように思います。
今回も参加者から仏教思想の話そのものだという話が出ましたが、社会構成主義はまさに仏教の縁起や共生きの考え方につながっています。
社会構成主義は、簡単に言えば、現実は私たちと無縁に存在する所与のものではなく、人間関係によってつくられる存在、それも、言葉によってつくられる存在だと捉えます。ですから人との関係によって、現実は変幻自在に変化するともいえます。そうであれば、みんなでつくりかえることもできるのです。
つくりかえられる現実には当然、自分も含まれる。自分もまた変幻自在に生きられる。
ガーゲンはデカルトをもじって、「我つながる、ゆえに我あり」とも言っていますが、つながる対象は人間に限らないだろうと坪田さんはいいます。
あらゆる意味が関係から生まれるのであれば、心という概念は一体どう考えればいいのか。さらに、個人の意識は他者の存在によって構成される、とすれば、どんな人と会うかで、自分が変わっていくことになる。
まさに朱に交われば朱くなるですが、これは心しなければいけません。
そういえば、最近、サロンに集まる人たちが、ちょっと似てきている感じもあります。これを壊さないとサロンの意味がありません。困ったものです。
それはともかく、関係のもつ力をきちんと理解することによって、私たちははじめて他者(人にかぎりません)とつながれるような気がします。そんなことを考えさせられるサロンでした。
以下は報告としては蛇足ですので、よほどお暇な方だけどうぞ。
今回のサロンを聞いていて、ほかのサロンとも深くつながっていることを感じました。
たとえば、先週の益田さんの細菌学サロン「自分とは何か」。そこでも自分と環境が問題になり、環世界のような話も出ていました。
また前日の万葉集サロンで話題になっている「な」と「わ」の関係もまさに今日のテーマにつながっています。ガーゲンは、著書の中でマルティン・ブーバーの『我と汝』に言及していますが、まさにタイトルは「わ」と「な」。関係規定的人間観と変幻自在的人間観につながっています。
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